おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

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そろそろ良い加減少しはスローライフをしたい

第50話 試作

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 伊織にアイスクリーム屋さんのバイトをしないか聞いてみたところ、是非やりたいと言ってくれた。
 
 ルミィは外様に厳しいタイプのお局様気質でもあったのか、伊織の加入を嫌がった。

「そもそもが、聖女の前に獣人出すなって話だったろ?
 獣人は……その、不浄的な感じで。
 でも、その獣人と聖女が一緒に活動してたらどうだ?
 聖女様が獣人をお認めくださっとるーありがたやー!ってなるだろ?」

 後付けの理由である。単に美人看板娘を増やせば増やすほど大儲けだと思ったのだ。
 なるべくタイプの異なる美人を入れたい。
 それに、聖女の威光でコニーを強制加入させられるかもしれない。
 コニーには世話になってるから、ほとぼりが冷めてこの街の差別意識が希薄になるまでは、なんとか粘って受付嬢に復帰してもらいたい。

 そんな感じの説明をヒソヒソしたところ、ルミィは根が素直なので、渋々納得してくれた。

 そして、コニーも冒険者ギルド長と伊織の説得に折れてくれた。

「聖女様とギルド長に、そんなに言われたら断る事はできません。
 でも、本当に私なんかが……」

 コニーはすっかり自信を無くしていた。

「大丈夫!トッキーさんを信じて!私のことも助けてくれたから。だからきっとコニーの事も助けてくれるよ!
 あ、それと、私の事は伊織って呼んでね!」

「そんな……その、イオリ……さん?」

「んー?まあ、今はそれで良いか。コニー、よろしくね!」

 伊織がコニーの手を握って励ます。
 過分な評価に口を挟みそうになったが、水を刺すのも悪いので時夫は黙っていた。
 伊織は本当に誰にでもフレンドリーで尊敬するよ。

「コニー。アイスクリーム、俺も楽しみにしてるからな。頑張れよ」

 ギルド長がぶっとい手をコニーの肩に置いて激励した。

 コニーがアイスクリーム屋さんに加入することに決まった。

 アイスクリーム屋さんプロジェクトは始まった。
 店舗は、冒険者ギルド長の知り合いのコネで、喫茶店が潰れて間もないところを借りることが出来た。
 少し大通りからは引っ込んだ所にあるが、集客は見込める。
 何と言っても冒険者ギルドの目と鼻の先だ。
 ギルド長……よほどコニーの事が心配なんだな。

 そして、次に大事な商品開発だ!
 時夫は現代知識チートを使うことにした!
 時夫はアイスクリームの作り方なんて実はわからない!でも、勝算がしっかりある。

「さあ!祈れ!祈るのだ!」

「はーい!」

 ルミィは理由も聞かず良い返事をした。よしよし良い子だ。
 
 ぴかー!

「何ですか?私はそなたらと違って忙しいのですよ」

 女神降臨!!
 金色の目が眠そうだ。また何かやらかしてリカバリーに奔走してんのか?
 祖父の事でモヤモヤはあるが、時夫はこのアホ女神の事はコキ使ってやる事に決めたのだ。
 復讐?その価値は無い。コイツは本当にダメでダメでダメな奴なんだ。
 いつか天罰が下るその時までは時夫の役に立って貰わないといけない。
 ……いや、機会があれば必ずやとは思ってるが。

「さあ!アイスクリームの作り方を教えてくれ!」

 そう、この女神は複数の世界にまたがって色々やってやがるようだし、時夫たちの世界にも詳しいっぽい感じがするのだ。
 知らないようだったら、もちろん調べに行かせるつもりだった。

「はぁ……何か変なことを始めたのですね。良いでしょう」

「ちょい待ち、これをつけろ」

 色付きメガネを付けさせる。金色の目は目立つからな。
 変身ネックレスを付けてても、アルマバージョンだと瞳だけは金色になってしまうのだ。

 材料はそれっぽい物を用意して置いた。
 色々なフレーバーがあった方が良いかと思って、フルーツも用意している。
 魔力回復の薬の材料のマルンの実も前にもいでおいたのが、『空間収納』にタップリとある。

「よーし!やるぞー!」

 と、言いつつ基本は女性陣に任せる。
 昭和の脳味噌の家事は女がやれという奴では断じて無い。
 時夫には一番大事な役割のアイスを冷やす作業があるのだ。

「うおー!『散水』『乾燥』『散水』『乾燥』『散水』『乾燥』!!!!!」

 時夫は巨大なキンキンに冷えた氷を作成する。氷の塊を入れておくタイプの冷蔵庫を魔道具屋のウィルに注文しておいたのだ。
 冷蔵庫内部もしっかり冷やす。うひょー!涼しいを通り越して寒いー!

 伊織とコニーは喋り方が微妙に変わったルミィの事はさほど気にせず熱心にアイスクリーム作りに勤しんでいる。
 ルミィもキャラがよくブレるから、多少変でも皆んな気にしないから良かった。

 そして、待つ事半刻。

「よし!実食!!」

 見た目は良い感じだ。果汁を入れたり、『乾燥』により水分を抜いて砕いたフルーツをトッピングに利用したり、いろんな種類がある。

「わぁ!美味しい!」「この赤いのってマルンの実ですよね?魔力回復するからギルドの人に人気出るかも」「冷たーい!」

 女子三人が姦しくきゃーきゃーと楽しそうだ。
 ……あれはルミィじゃなく女神アルマの方なんだよな?なんか溶け込んじゃってるぞ?

「ギルド長にも持って行こう。お世話になってるからな」

 一番評判の良いマルンの実のフレーバーを持っていく事にする。
 食べると舌が赤くなるが、甘酸っぱくてサッパリして美味しい。

「あの……私も行きます」

 コニーが立ち上がった。

「皆んなで行こうよ!」

 伊織がルミィ?の手を取り立たせる。

 そして、すぐ側の冒険者ギルドに行くと、コニーが固まった。

「おい!何で薄汚い狐がこんな所来てるんだ?」

 見るからに頭悪そうな冒険者がガニ股で目をかっぴらいて近づいてきた。

「おい!やめろ!」

 ギルド長が怒り心頭の顔で止めようと近づいてくる。
 
 一方時夫は…………感動していた。
 
 なんて雑魚っぽい人なんだ!
 モヒカンだし!肩にトゲトゲ付いてるし!着てるの謎のベストだし!

 この感動を誰かと共有したくて振り向いたが、コニーは怯えた顔をしてるし、ルミィ?は雑魚さんを小馬鹿にした顔してるし、伊織は正義感溢れる瞳でモヒカンを睨んでるし、
 時夫の気持ちは誰も分かってくれそうになかった。
 時夫は今孤独だ。

「あ゛あ゛!?何だテメ?馬鹿にしてんのか?お゛!?」

 なんとなんと!あろうことか、雑魚さんは誰よりも雑魚さんを高く評価している時夫に難癖をつけて来た!
 この世で時夫だけは雑魚さんの味方なのに!
 どうして……どうして皆んな時夫のことを誤解するのか?
 時夫は今孤独だ。

「『空間収納』」

 時夫はボソッと呟いた。
 磨き上げた繊細な技術により、モヒカンの頂点付近に可燃性の液体を染み込ませた小さな布をそっと落とした。

「あ゛!?何みてんだコラ!?」

 顔を左右非対称に歪める高等技術を披露してくれている雑魚さんの質問には答えずに、小さな声で呟いた。

「『ファイアボール』」

 小さな火種がモヒカンに迫る!
 その小ささにモヒカンは気づいて無い様子。

 やった!ついた!

「ンダコラ!?何さっきから人の頭の上見て……あ゛!?」

 気がついてしまった。
 雑魚さんは今、人間蝋燭になってもらったのに。

「ぷふふ……」

 ルミィ?が吹き出す。

「ちょ……笑っちゃ悪いですよ……クス」

 伊織もそう言いつつ、クスクス笑い出した。
 コニーも笑うのを堪えている。
 周囲の面白そうに、あるいはつまらなそうに事を離れて見ていた冒険者達からも、忍び笑いや、馬鹿にする声が聞こえてくる。

「おい!み……水!水を……!」

 雑魚さんはどうやら水系の魔法使いでは無いらしく困ってる。剣士にも見えないけど、コイツそういえば何なんだろう?

 バシャ!!

 モヒカンの火は消え、水が滴り落ちる。
 ギルド長がデカいジョッキで水をぶっ掛けたのだ。

「出てってくれ。
 言うこと聞けないなら懲罰的クラス変更を協会本部に申請してやっても良いんだぞ?
 その場合は数年はクラスアップ出来ないと思え」

 モヒカンは顔を歪めながら忌々しそうだったが、ギルド長が本気らしいのが分かると、無言で立ち去った。
 
 ギルド長の口にした、懲罰的クラス変更はギルド長の持つ特権で、それをやられた冒険者は、クラスが一つ下がってしまう。
 しかし、諸刃の剣なところがあって、ギルド長の評価にもかなりのマイナスがあるので、行使すれば、更新時にクビになる可能性が高くなってしまうのだ。
 ギルド長はそれをつまらない脅しとしてでは無く口にしたのだ。
 周囲の冒険者にもそれが伝わったようだ。
 ……多少はコニーに強く当たる奴も減るかな。
 
 ギルド長は伊織に向かっていつもより丁寧に挨拶をした。

「これはこれは聖女サリトゥ様!
 ようこそ冒険者ギルドへ。こんな汚いところまで、よくぞお越し下さいました」

 ギルド長はわざと大きめな声で挨拶をする。
 伊織もニッコリ笑って答えた。

「コニーとは親友だから、これからも偶に顔を出しますね」

 その言葉に、冒険者達のヒソヒソ話が過熱する。
 
「そうそう、コニーがギルド長に渡すものがあるからって、ね?」

 伊織がコニーの背中を優しく押した。

「ギルド長……これ、試しに作って見たやつです。食べてみてください」

 コニーがアイスクリームを差し出した。少し溶けてしまっているが、上手くてると思う。

「ありがとう……ああ、こりゃ美味いな。……たくさん売れよ」

 ギルド長は少し赤く染まった歯を見せてニカっと笑った。

「はい!頑張ります」

 コニーもニコッと笑い返した。
 

 
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