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疾風の天使
第25話 疾風の天使アーローとの戦い
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「……それでトッキーとやら、あなたは聖女の側で、私の敵ってことで良いのかしら?」
謎の名乗りの内容については触れないことを決めたらしいアーローは、改めて答えて貰ってない質問内容を丁寧に聞き直してくれた。
馬鹿にしたりせずに言い換えてくれるなんて、もしかしたら親切なやつなのかもな。出会い方が違ったら云々……。
とかどうでも良いことをつらつら考えても仕方ない。あんまり思考が脱線すると、また質問内容を忘れてしまう。答えはもちろん、
「敵だ」
時夫は宣言しながら、空間収納から杖を取り出し構えた。
アーローは満足げに大きな口の端を釣り上げて微笑み、金色の瞳を細くした。
「切り刻んで死体を空からバラ撒いてあげましょう。弱さは罪なのです」
アーローはくるりと体を回転させながら、高度を上げ強く大きく翼をバサリと広げた。
翼から飛び出した何十という羽がアーローの周囲の空間に展開した。
その羽の周辺は空間ごと澱んで暗くなっている。
齋藤さんが叫ぶ。
「気をつけてください!瘴気です!」
その声に反応したかの様に、一斉に羽が地上に発射された。
「『ウォーターウォール』!」
齋藤さんが叫んだ。
その名のとおり水の壁が齋藤さんたちの目の前に現れて殆どの瘴気の羽から身を守った。
……あ、さっき出して水浸しにした水をついでに活用してくれてる。嬉しい。
時夫の方はルミィが風の壁を周囲360度展開してくれて防いでくれた。
「お返しです!」
ルミィが風で巻き取った羽をアーローの方に飛ばすが、残念ながら同じ風使い。同じ様に防がれてしまった。
「ダメだ。多分遠距離攻撃は基本的に効かない。
……雷魔法なら効いたかも知れないけど、王子は使えなくなってるんだもんな。残念だ」
後半は小さめの声で言った。しかし、ルミィにはバッチリ聞こえていた様だった。
「王子弱体化はトキオのせいじゃないですか!
……でも、王子は元々そんなに電気は距離飛ばせ無かったはずです。
雷落としたりする魔法も存在はしますが、王子のような凡才には無理無理ですね」
ルミィはトキオを注意するかと思いきや、王子をこき下ろす。良い性格している。さすが我が相棒。
「何にしても接近戦か。よし!サポートよろしく!」
『ウサギの足』
杖の補助で高く高く上がる。そしてルミィが風で補助しながら、なおもこちらを狙う羽から身を守ってくれる。
『空間収納』
時夫はこの魔法の距離限界を調べてみたところ、普通は1メートルくらいで、どうにも他の人よりも魔法に長けているらしいルミィですら3メートル圏内の様だったが、時夫は違う。
この女神より与えられた生活魔法の頂点は、現時点で20メートル先に物を自由に出し入れ出来るのだ!
「へ?は……はっくしょ、はっくしょん!」
「ふはははははは!!!効いてる効いてる!」
アーローがくしゃみしてるのを見て、時夫は大喜び。大量の胡椒で苦め!!
「……こ、この!!」
アーローが涙目で時夫を睨みつけた。
「え……ぶわっくしょん!!」
風に乗せて胡椒をこちらに返してきた。なんと小癪な!!
「トキオ……馬鹿です!!」
ルミィがなんか言ってる。後でデコピン喰らわすぞ。
地表におり立ち、もう一度『ウサギの足』でアーローに襲い掛かる。
風でアーローは時夫を押し返そうとするが、ルミィが同じ風の魔法で中和してくれてるため、時夫はアーローに何とかまた接近する。
「ルミィ!何とかあいつに捕まりたい!」
「はい!」
時夫の叫びに応えて、ルミィが風を強めて時夫をアーローの元へ届けてくれた。翼の先に手が届いた。
『滑り止め』
魔力を力一杯注いだ。
その結果、恐るべき摩擦力で僅かに掴めているだけなのに、見た目より遥かにしっかり掴めている。多分石鹸水でツルッツルにしていても滑らない自信がある。
「やめろ!離せ!!」
アーローが嫌がり翼を強くはためかせる。それを空中に何個も出した『クッション』で身体が振り落とされない様に自分の周囲を囲んで耐えながら少しずつ翼の根元に近づいていく。
「くっ!この!落ちろ!!」
時夫が翼を掴んでいるせいで、どんどん高度が落ちていく。
風の魔法の補助で落下するのは免れているようだが、下には王子と聖女を守ろうと続々と兵士だか騎士だかっぽいのが集まっている。
もう少し高度が下がれば、多くの魔法使いにとって射程範囲内になるだろう。
流石に人目のある所で宣戦布告するなんて馬鹿なやつだ。
既に杖を構えて大勢が手ぐすね引いて待ち構えてるぞ!
「すぐに攫って逃げる予定だったのに……!私はユミスと違って平和主義なのに!なんて愚かな人間ども!」
アーローは悔しそうに言う。でも、死体をバラ撒くとか言ってなかったか?この自称平和主義者は。
アーローが地面に降り立つ、その瞬間、王子が剣をアーロー……と時夫の方に向けて言い放つ。
「よし!撃てー!」
「え?」
「トキ……じゃ無くて、トッキー!!」
ルミィが叫んだ。ちゃんと冷静に言い直しつつ叫んだ。
王子たちを守るために集まった人達は、なんとアーローが地面に降り切るのを待たずに時夫ごと殺そうとしてきた。
光と熱と水と植物の何かと尖った何かが一斉に時夫とアーローを襲う。
土煙が上がり、そして視界が晴れてくる。
アーローは死んでいなかった。しかし、ダメージはそれなりに大きい様だ。
時夫は咄嗟に地面に伏せつつ、事前に貰った観客を守るための円盤を使って何とか無事だ。
狙ったのが時夫ではなくあくまでアーローが攻撃対象だったから耐えられた。
でも、ノーコントロールなやつが何人かいたっぽいので、危なかった。
「ふふん。私が引導を渡してやろう」
水も滴る良い男こと何ちゃら王子が濡れた前髪を掻き上げながらアーローに近づいてきた。
「王子!危険です!」
「平気だよ。こいつは邪教徒だな。国民の安寧を脅かす脅威はこの私が成敗してくれ……うわあああああ!!」
王子はアーローに掴み掛かられ、あっという間に空高く舞い上がっていく。
「もう!行きますよ!……トッキー!」
ルミィの杖に乗って時夫たちはアーローを追う。
「あのバカ王子!邪教徒を倒す手柄欲しさに、安易に近づいて!も~本当にバカ!」
ルミィが悪態をついている。
王子とはやっぱり顔見知りなのかな。
王子は気絶している様だ。グッタリとして動かない。
「追いつけそうか?」
時夫を乗せたままだと厳しかろうと心配して声をかける。
「邪教徒とはそのうち戦うことになると思ってたんです!ふふふ……この世は金、金なんですよ!!」
ルミィが最高にご機嫌に答えてくれた。
収納から取り出したらしい、それは立派な緑色の魔石を取り出した。
拳大の時夫でもわかる超一級品だ。
神官って儲かるの?時夫は一応見習いだけど、本採用されたらそれくらい買える様になるの?
「行きますよ!!」
ルミィはガンガンにぶっ飛ばした。
途中で立派な木の生えた森の上空を通る。
「ルミィ……ちょっとお願いが……出来れば何だけど」
思いつきをルミィに話す。
「そんなこと出来るんですか?」
「やってみる」
俺は生活魔法のカリスマだ。
「な……!?人間がなぜ私に追いつけるの?」
自称天使は驚愕に金色の目を見開いた。
少し準備を途中でしたものの、速度はルミィの方が速い。金の力ってすげー!
「うおーーー!!!!行くぜ!!!!」
時夫は今一度アーローに飛び乗った。
「くっ!落ちろ!」
「『空間収納』」
「……ガッ!」
アーローの首が仰け反り、速度と高度を一気に落とし、ついに地面に落ちた。
少し離れた地面に切り口の新しい太い木が大きな音を立てて転がる。
先ほどルミィの風の刃で切り倒して時夫が収納していた木だ。
アーローの目の前に出したので、アーローは全力で顔面から突っ込んでしまったのだ。
速度が速い分痛かろう。
そう、『空間収納』は生活魔法、賢い主夫の基本のきだ。
そして、
「なっ!?翼が!どうなっている!?」
アーローがジタバタともがく。
投げ出された王子は『クッション』で無事だ。時夫はアーローの翼がクッションの役割をしてくれたので大丈夫だった。
そのついでに、新しい魔法が生き物にも使えないか確かめてみたのだ。
今、アーローの左右の翼は『接着』でガッチリくっついている。
世界最強の生活魔法の『接着』だ。くっ付いている部分の羽が全部抜けるくらいの覚悟でないと剥がせないだろう。
もちろん『剥離』を時夫が使ってあげればすぐにでも自由だけどな!
そして、『接着』を使ったのは翼だけでは無い。
服も左右の袖をくっつけてみた。簡単な拘束衣の様になっている。もちろん全力で服でも破けば自由の身なんだが……。
ルミィが空からふわりと降りたった。
魔力を戦闘に回すために変身を解き、その美しい金色の髪を風にたなびかせ、冷え冷えとした青灰色の瞳をアーローに向けている。
「アーロー、邪神はあなたたちを使って何をするつもりなんですか?」
アーローは厳しい口調で問いかけるルミィを睨んだ。
「あの方を邪神などと呼ぶな!唯一神の目的なんて決まっている!
アルマに奪われた神としての力を取り戻し、再びこの世界唯一の神となる事だ!」
「そうですか。『ウィンドスラッシュ』」
ルミィの持つ大きな緑の石が砕け、アーローの首が飛んだ。
身体がゆっくりと倒れ、首と身体それぞれが黒い液体に変化していく。
「う……うう……」
何ちゃら王子が意識を取り戻しかけている。
ルミィはそっとフードを被り直した。
変装用のメガネを掛け直している。
「俺は大丈夫かな……至近距離で顔見られない方が良いのかな?」
一応王子は時夫の顔を知っているはず。
「不安なら女の子モードを使ってみては?」
そう言えば、そんなモードもあったな。
「こ、ここは……?」
王子がキョロキョロと周りを見まわす。
「そうだ、鳥の化け物……私は……君、もしかして君が助けてくれたのか!?」
ガバッと起き上がると、時夫の手を取った。
「え、あの、そ、そうでーす」
女言葉使おうと思ったが、咄嗟に出てこなかったので、変な返事になってしまった。
ルミィを振り向くと、いつの間にかいなかった。
王子の背後、少し離れたところに杖に腰掛けた影が見えたので上空に避難した様だ。
「恩人の顔を見せてくれ!」
「え、いや……その」
断ろうとしたのに、フードを無理やり下ろされた。コイツ本当に自分勝手だ。
「……綺麗な髪だ……瞳も……」
キラッキラの青い瞳で至近距離で見つめてくる。それにいつの間にか、また手を握ってやがる。気持ち悪!
一歩後退すると、一歩近づいてくる。振り解きたい!
「私の命の恩人の名前を聞かせてはくれまいか?」
言い方気持ち悪い!
「あの……手を離して……」
「君の名前を教えて貰えたら考えよう」
考えるだけかよ!
「……ゾフィーラです」
ごめんなゾフィーラ婆さん。名前借りるわ。
「普段は何をしてるの?」
「……神に使えています」
見習い神官だからね!
「今度お礼に……「殿下!ご無事でしたか!!」」
手が緩んだ隙に時夫は王子から距離を取った。
空を飛んできた兵士やら騎士やらが王子を囲む。
今のうちに変身を解いた。黒髪に戻る。
「あれ?……ゾフィーラ?ゾフィーラは?」
「これが邪教徒の死骸ですね。もう消えかけてますが討伐の証拠を取っておきましょう。しかし、これを倒すなんてさすが王子……」
「いや、私は……それより赤毛の女の子は見なかったか?」
「女なんてどうでも良いでしょう。擦り傷がありますから医師に診てもらいますよ」
ルミィが空からそっと迎えにきてくれた。他の人たちに紛れて時夫たちも帰還した。
次の日の新聞を見ると、アーローの討伐は王子の手柄になっていた。
それに、観客をアーローから守ったのは何故か聖女サリトゥと騎士団長の息子という事に。
口止め料なのか、お金は冒険者ギルドを通してたくさん貰えたが……。
ルミィは結構怒っていた。巨大な魔石まで使って倒したのが、手柄を取られたのだ。
「ほら、良いから次の依頼を選ぶぞ。……げっ!!」
「トキオ、どうしました……ぷぷ」
時夫はその依頼書をみて顔を思いっきり顰め、ルミィは吹き出した。
『人探しの依頼――赤毛に赤茶色の瞳の少女ゾフィーラ』
ルミィがニヤニヤしながら嘯く。
「依頼受けちゃおっかなー……いったあ!」
時夫のデコピンが久々に炸裂した。
謎の名乗りの内容については触れないことを決めたらしいアーローは、改めて答えて貰ってない質問内容を丁寧に聞き直してくれた。
馬鹿にしたりせずに言い換えてくれるなんて、もしかしたら親切なやつなのかもな。出会い方が違ったら云々……。
とかどうでも良いことをつらつら考えても仕方ない。あんまり思考が脱線すると、また質問内容を忘れてしまう。答えはもちろん、
「敵だ」
時夫は宣言しながら、空間収納から杖を取り出し構えた。
アーローは満足げに大きな口の端を釣り上げて微笑み、金色の瞳を細くした。
「切り刻んで死体を空からバラ撒いてあげましょう。弱さは罪なのです」
アーローはくるりと体を回転させながら、高度を上げ強く大きく翼をバサリと広げた。
翼から飛び出した何十という羽がアーローの周囲の空間に展開した。
その羽の周辺は空間ごと澱んで暗くなっている。
齋藤さんが叫ぶ。
「気をつけてください!瘴気です!」
その声に反応したかの様に、一斉に羽が地上に発射された。
「『ウォーターウォール』!」
齋藤さんが叫んだ。
その名のとおり水の壁が齋藤さんたちの目の前に現れて殆どの瘴気の羽から身を守った。
……あ、さっき出して水浸しにした水をついでに活用してくれてる。嬉しい。
時夫の方はルミィが風の壁を周囲360度展開してくれて防いでくれた。
「お返しです!」
ルミィが風で巻き取った羽をアーローの方に飛ばすが、残念ながら同じ風使い。同じ様に防がれてしまった。
「ダメだ。多分遠距離攻撃は基本的に効かない。
……雷魔法なら効いたかも知れないけど、王子は使えなくなってるんだもんな。残念だ」
後半は小さめの声で言った。しかし、ルミィにはバッチリ聞こえていた様だった。
「王子弱体化はトキオのせいじゃないですか!
……でも、王子は元々そんなに電気は距離飛ばせ無かったはずです。
雷落としたりする魔法も存在はしますが、王子のような凡才には無理無理ですね」
ルミィはトキオを注意するかと思いきや、王子をこき下ろす。良い性格している。さすが我が相棒。
「何にしても接近戦か。よし!サポートよろしく!」
『ウサギの足』
杖の補助で高く高く上がる。そしてルミィが風で補助しながら、なおもこちらを狙う羽から身を守ってくれる。
『空間収納』
時夫はこの魔法の距離限界を調べてみたところ、普通は1メートルくらいで、どうにも他の人よりも魔法に長けているらしいルミィですら3メートル圏内の様だったが、時夫は違う。
この女神より与えられた生活魔法の頂点は、現時点で20メートル先に物を自由に出し入れ出来るのだ!
「へ?は……はっくしょ、はっくしょん!」
「ふはははははは!!!効いてる効いてる!」
アーローがくしゃみしてるのを見て、時夫は大喜び。大量の胡椒で苦め!!
「……こ、この!!」
アーローが涙目で時夫を睨みつけた。
「え……ぶわっくしょん!!」
風に乗せて胡椒をこちらに返してきた。なんと小癪な!!
「トキオ……馬鹿です!!」
ルミィがなんか言ってる。後でデコピン喰らわすぞ。
地表におり立ち、もう一度『ウサギの足』でアーローに襲い掛かる。
風でアーローは時夫を押し返そうとするが、ルミィが同じ風の魔法で中和してくれてるため、時夫はアーローに何とかまた接近する。
「ルミィ!何とかあいつに捕まりたい!」
「はい!」
時夫の叫びに応えて、ルミィが風を強めて時夫をアーローの元へ届けてくれた。翼の先に手が届いた。
『滑り止め』
魔力を力一杯注いだ。
その結果、恐るべき摩擦力で僅かに掴めているだけなのに、見た目より遥かにしっかり掴めている。多分石鹸水でツルッツルにしていても滑らない自信がある。
「やめろ!離せ!!」
アーローが嫌がり翼を強くはためかせる。それを空中に何個も出した『クッション』で身体が振り落とされない様に自分の周囲を囲んで耐えながら少しずつ翼の根元に近づいていく。
「くっ!この!落ちろ!!」
時夫が翼を掴んでいるせいで、どんどん高度が落ちていく。
風の魔法の補助で落下するのは免れているようだが、下には王子と聖女を守ろうと続々と兵士だか騎士だかっぽいのが集まっている。
もう少し高度が下がれば、多くの魔法使いにとって射程範囲内になるだろう。
流石に人目のある所で宣戦布告するなんて馬鹿なやつだ。
既に杖を構えて大勢が手ぐすね引いて待ち構えてるぞ!
「すぐに攫って逃げる予定だったのに……!私はユミスと違って平和主義なのに!なんて愚かな人間ども!」
アーローは悔しそうに言う。でも、死体をバラ撒くとか言ってなかったか?この自称平和主義者は。
アーローが地面に降り立つ、その瞬間、王子が剣をアーロー……と時夫の方に向けて言い放つ。
「よし!撃てー!」
「え?」
「トキ……じゃ無くて、トッキー!!」
ルミィが叫んだ。ちゃんと冷静に言い直しつつ叫んだ。
王子たちを守るために集まった人達は、なんとアーローが地面に降り切るのを待たずに時夫ごと殺そうとしてきた。
光と熱と水と植物の何かと尖った何かが一斉に時夫とアーローを襲う。
土煙が上がり、そして視界が晴れてくる。
アーローは死んでいなかった。しかし、ダメージはそれなりに大きい様だ。
時夫は咄嗟に地面に伏せつつ、事前に貰った観客を守るための円盤を使って何とか無事だ。
狙ったのが時夫ではなくあくまでアーローが攻撃対象だったから耐えられた。
でも、ノーコントロールなやつが何人かいたっぽいので、危なかった。
「ふふん。私が引導を渡してやろう」
水も滴る良い男こと何ちゃら王子が濡れた前髪を掻き上げながらアーローに近づいてきた。
「王子!危険です!」
「平気だよ。こいつは邪教徒だな。国民の安寧を脅かす脅威はこの私が成敗してくれ……うわあああああ!!」
王子はアーローに掴み掛かられ、あっという間に空高く舞い上がっていく。
「もう!行きますよ!……トッキー!」
ルミィの杖に乗って時夫たちはアーローを追う。
「あのバカ王子!邪教徒を倒す手柄欲しさに、安易に近づいて!も~本当にバカ!」
ルミィが悪態をついている。
王子とはやっぱり顔見知りなのかな。
王子は気絶している様だ。グッタリとして動かない。
「追いつけそうか?」
時夫を乗せたままだと厳しかろうと心配して声をかける。
「邪教徒とはそのうち戦うことになると思ってたんです!ふふふ……この世は金、金なんですよ!!」
ルミィが最高にご機嫌に答えてくれた。
収納から取り出したらしい、それは立派な緑色の魔石を取り出した。
拳大の時夫でもわかる超一級品だ。
神官って儲かるの?時夫は一応見習いだけど、本採用されたらそれくらい買える様になるの?
「行きますよ!!」
ルミィはガンガンにぶっ飛ばした。
途中で立派な木の生えた森の上空を通る。
「ルミィ……ちょっとお願いが……出来れば何だけど」
思いつきをルミィに話す。
「そんなこと出来るんですか?」
「やってみる」
俺は生活魔法のカリスマだ。
「な……!?人間がなぜ私に追いつけるの?」
自称天使は驚愕に金色の目を見開いた。
少し準備を途中でしたものの、速度はルミィの方が速い。金の力ってすげー!
「うおーーー!!!!行くぜ!!!!」
時夫は今一度アーローに飛び乗った。
「くっ!落ちろ!」
「『空間収納』」
「……ガッ!」
アーローの首が仰け反り、速度と高度を一気に落とし、ついに地面に落ちた。
少し離れた地面に切り口の新しい太い木が大きな音を立てて転がる。
先ほどルミィの風の刃で切り倒して時夫が収納していた木だ。
アーローの目の前に出したので、アーローは全力で顔面から突っ込んでしまったのだ。
速度が速い分痛かろう。
そう、『空間収納』は生活魔法、賢い主夫の基本のきだ。
そして、
「なっ!?翼が!どうなっている!?」
アーローがジタバタともがく。
投げ出された王子は『クッション』で無事だ。時夫はアーローの翼がクッションの役割をしてくれたので大丈夫だった。
そのついでに、新しい魔法が生き物にも使えないか確かめてみたのだ。
今、アーローの左右の翼は『接着』でガッチリくっついている。
世界最強の生活魔法の『接着』だ。くっ付いている部分の羽が全部抜けるくらいの覚悟でないと剥がせないだろう。
もちろん『剥離』を時夫が使ってあげればすぐにでも自由だけどな!
そして、『接着』を使ったのは翼だけでは無い。
服も左右の袖をくっつけてみた。簡単な拘束衣の様になっている。もちろん全力で服でも破けば自由の身なんだが……。
ルミィが空からふわりと降りたった。
魔力を戦闘に回すために変身を解き、その美しい金色の髪を風にたなびかせ、冷え冷えとした青灰色の瞳をアーローに向けている。
「アーロー、邪神はあなたたちを使って何をするつもりなんですか?」
アーローは厳しい口調で問いかけるルミィを睨んだ。
「あの方を邪神などと呼ぶな!唯一神の目的なんて決まっている!
アルマに奪われた神としての力を取り戻し、再びこの世界唯一の神となる事だ!」
「そうですか。『ウィンドスラッシュ』」
ルミィの持つ大きな緑の石が砕け、アーローの首が飛んだ。
身体がゆっくりと倒れ、首と身体それぞれが黒い液体に変化していく。
「う……うう……」
何ちゃら王子が意識を取り戻しかけている。
ルミィはそっとフードを被り直した。
変装用のメガネを掛け直している。
「俺は大丈夫かな……至近距離で顔見られない方が良いのかな?」
一応王子は時夫の顔を知っているはず。
「不安なら女の子モードを使ってみては?」
そう言えば、そんなモードもあったな。
「こ、ここは……?」
王子がキョロキョロと周りを見まわす。
「そうだ、鳥の化け物……私は……君、もしかして君が助けてくれたのか!?」
ガバッと起き上がると、時夫の手を取った。
「え、あの、そ、そうでーす」
女言葉使おうと思ったが、咄嗟に出てこなかったので、変な返事になってしまった。
ルミィを振り向くと、いつの間にかいなかった。
王子の背後、少し離れたところに杖に腰掛けた影が見えたので上空に避難した様だ。
「恩人の顔を見せてくれ!」
「え、いや……その」
断ろうとしたのに、フードを無理やり下ろされた。コイツ本当に自分勝手だ。
「……綺麗な髪だ……瞳も……」
キラッキラの青い瞳で至近距離で見つめてくる。それにいつの間にか、また手を握ってやがる。気持ち悪!
一歩後退すると、一歩近づいてくる。振り解きたい!
「私の命の恩人の名前を聞かせてはくれまいか?」
言い方気持ち悪い!
「あの……手を離して……」
「君の名前を教えて貰えたら考えよう」
考えるだけかよ!
「……ゾフィーラです」
ごめんなゾフィーラ婆さん。名前借りるわ。
「普段は何をしてるの?」
「……神に使えています」
見習い神官だからね!
「今度お礼に……「殿下!ご無事でしたか!!」」
手が緩んだ隙に時夫は王子から距離を取った。
空を飛んできた兵士やら騎士やらが王子を囲む。
今のうちに変身を解いた。黒髪に戻る。
「あれ?……ゾフィーラ?ゾフィーラは?」
「これが邪教徒の死骸ですね。もう消えかけてますが討伐の証拠を取っておきましょう。しかし、これを倒すなんてさすが王子……」
「いや、私は……それより赤毛の女の子は見なかったか?」
「女なんてどうでも良いでしょう。擦り傷がありますから医師に診てもらいますよ」
ルミィが空からそっと迎えにきてくれた。他の人たちに紛れて時夫たちも帰還した。
次の日の新聞を見ると、アーローの討伐は王子の手柄になっていた。
それに、観客をアーローから守ったのは何故か聖女サリトゥと騎士団長の息子という事に。
口止め料なのか、お金は冒険者ギルドを通してたくさん貰えたが……。
ルミィは結構怒っていた。巨大な魔石まで使って倒したのが、手柄を取られたのだ。
「ほら、良いから次の依頼を選ぶぞ。……げっ!!」
「トキオ、どうしました……ぷぷ」
時夫はその依頼書をみて顔を思いっきり顰め、ルミィは吹き出した。
『人探しの依頼――赤毛に赤茶色の瞳の少女ゾフィーラ』
ルミィがニヤニヤしながら嘯く。
「依頼受けちゃおっかなー……いったあ!」
時夫のデコピンが久々に炸裂した。
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基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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