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豊穣の天使
第15話 北の森
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北の森の瘴気の調査はクラス3相当らしく、クラス5の時夫だけでは受付されないが、ルミィとパーティを組んで登録した事で、無事受理された。
調査が完了すると冒険者の登録カードに記録されるらしい。
わからない事があったらヘルプ機能もある。
端っこの方を撫でると、音声での案内もあったりする。
この世界では――冒険者になる様な人だと特にそうなのだが――学校に行ってなくて文字が読めない人が多い。
義務教育とか無いんだな。
だから音声でのやり取りしている奴らが多くて、カード相手にお喋りしてる鎧の剣士っぽいのもいた。
なんだかその姿はどうにもマヌケっぽかったが、時夫以外の人はなんとも思っていない様だった。
ところ変われば常識も変わろうというものだ。
なんなら、銀色のカードと対話していた剣士は周りから一目置かれている雰囲気があった。
ルミィのカードも銀色だから、ソイツもクラス2って事なんだろうな。……クラス2って凄いのかな。実はルミィって名の知れた冒険者だったりするのか?
神官兼やり手の冒険者。
うーん……そう言うカッコ良さげな肩書は時夫が欲しかった。
何はともあれ、時夫とルミィは動きやすい格好で北の森の方までやってきた。
ルミィは風の魔法で、時夫は『ウサギの足』とその他魔法の連続使用で結構なスピードで移動した。
やはり街中よりは外の方が障害物が少なくて思う存分全力でやれるな。
まあちょっと疲れたけど。
魔力はまだ八割くらいはある気がするから、多分帰りまで持つだろう。
森に入った感じは全然普通だ。
ここの何処かでテオールの父親が迷っているのか。あるいは怪我でもして動けないのか。
てっきり既にいなくなって何日も経っている様だし、捜索されているのかと思っていたが、ルミィ曰く、冒険者が仕事の最中いなくなるのはあるある過ぎて放置されているらしい。そうと知っていれば、もっと早くに探しに来たのにな。
因みに登録は、一年仕事をしていなければ勝手に削除されるのだとか。
扱いが色々雑だ。
いなくなってからの日数を考えると、最悪の事態も想定しなくてはいけないだろう。でも、できればテオール達に父親を返してやりたい。
せっかく母親はこれから元気になりそうなんだ。
見つけた時用に飲み物と、消化に良さそうな食料を空間収納に買っていれておいた。
他にも着替えとかもある。
ちょっと買い過ぎたので、ルミィにお金を借りている。
是非とも出費が無駄にならない結果を時夫は望んでいる。
「結構人の手が入れられてるのか?この道とか結構広いし」
時夫はキョロキョロしながら不審なところがないか観察する。
都会っ子だから時夫はそもそも自然には詳しくないが、危険はできるだけ早く察知しておきたいのだ。
時夫の薄茶の前髪が木々を抜ける風に揺れる。
『探索』は時夫の持ち物にしか反応しない為、この状況下では、通常ならばテオールの父親のウィルには使えない。
そう、通常ならば。
実は、冒険者ギルドを一旦出てからウィルの姿に変身して、ウィルの登録カードを再発行してもらったのだ。
本人証明を求められたので、テオールに頼んでウィルが大工の組合に入っていた時の証明を借り受けて、手数料を払ったら即時発行された。
中々手間をかけたが、これでウィルの登録カードは時夫の物となった。
……と言う認識だ。
そして、ウィルが持っている前のカードも時夫の物である……と言う認識にする。
我ながら無茶苦茶言っている気がしたが、生活魔法はその無茶苦茶に応えてくれ、森の奥の方に前のカードがある事が何となく感じられるようになっている。
登録カードを誰かに奪われたり、落としたりしていなければ、カードのある場所にウィルはいるはずだ。
時夫は『探索』の効果が元の姿に戻ったら切れるんじゃないかと心配で、念のためにウィルの姿を維持している。
顔まで別人の姿を保つのは魔力の消費が大きいから、ルミィはあまりやらないらしい。
だから髪と目の色だけいつも変えているっぽい。
「今のところ普通の森だな」
時夫にはこの森の異変はわからない。
「もっと奥に行かないと異変は無いのかも知れませんね。
ここは材木のために入る人もいますし、動物も沢山いたり、木の実やキノコや……後は魔石もたまに落ちてたりするから冒険者御用達のスポットだったんですけどね」
ルミィも周囲を観察しつつ返事をする。
「魔石って?」
毎日の様に知らない単語が出てくる。この世界では常識なのかも知れないが、時夫には初めて聞く言葉だ。
「魔道具の核になってる奴ですよ!魔力純度が高いほど透明度が高くて輝きも強いんです。
それに篭っている魔法の種類で色が違うんですよ。変身ネックレスのは炎と光の魔力が篭ってるんです」
「光が変身は何となく分かるけど、炎は関係ない様な……」
懐からネックレスについた石を取り出し観察する。
確かに赤くて炎っぽさはある。
「石を囲んでいる所に魔法陣が刻んでありますよね。光の魔力の入ってる石がその中に入れば、他の石に付け替えても多分使えますよ」
ふーん、と生返事しながら石を弄る。
……ヤベ、取れかけた。
慌ててまた嵌める。ちょっと動かして、ぽろっと落ちないか確認する。
大丈夫そうだ。多分。
幸いルミィは時夫がネックレスを壊しかけた事に気がついていなさそうだ。
まあ、付け替えオッケーって言ってたし、取れるのはそう言う使用なんだ。うん。
ふと、気になった事があったので、よくわからん木の枝になっているよくわからん木の実を観察しているルミィに質問する。
「魔石って装飾品とか魔道具にしないと使えないのか?」
ルミィはよくわからん木の実を手に取りつつ、答える。
「そのままでも使えますよ。その魔石の持ってる力によって何ができるか変わります。
魔力を一切持ってない人でも使えます。ただし、中の力を使い切ると割れちゃってダメになるから注意ですね。
少しでも魔力が残っていれば、時間をかけて周りから魔力を吸収して回復してくれるんですけどね。
そういえば、安くて一つ一つは魔力が少ししか入っていない魔石を敵にバンバン投げつけて魔力を暴発させる冒険者なんかもいましたねぇ。
でも、石そのままなら、基本的には自分の魔法の強化とかサポートに使うのが普通ですよ」
石を投げつけまくるのか……シンプルイズベストで良いな……。でも、安い石でもそれだと結構金かかるんだろうな。
今後の時夫の戦術も広がりそうなので、魔法に関する知見を広げるのは今後も意識していきたい所だ。
ガサガサ……
茂みが動いた!
「何だ!?」
時夫とルミィが警戒すると、
ぴょこん
可愛いうさぎだ!
長い耳とふわふわの毛。元の世界のウサギとほとんど見た目は一緒だな!
赤い目が爛々と光っている。
オデコに長いツノが生えているのが、元の世界との最大の違いだ。
「よーし、よし!人参でも持ってりゃ良かったな」
そこら辺の葉っぱを持って時夫は近づく。
「トキオ!気をつけて!」
ルミィが警戒を解いていない。小動物苦手か?
ガブ!
「いってえ!」
うわぁ!噛みついてくる!葉っぱじゃなくて指に!いたい!血が出る!
「そのウサギは魔獣になってます!」
ルミィが叫ぶ。
「そう言うことは早く言ってくれ!」
ルミィが空間収納から身の丈程の長い杖を取り出した。
細かい模様と装飾が全体に施され、大きな無色透明の日の光で七色に輝く宝石が嵌め込まれている。
ルミィが杖を振るうと、突風が吹き、ウサギは茂みの向こうに飛ばされて行った。
しかし、また茂みがガサガサ、ガサガサと音を立てる。
しつこいウサギだ。
そして、ウサギが姿を現す。
どんどん現す。
ガンガン現す。
「……数、多くないか?」
「そのようです……」
二人は気がつけば30匹を超えるウサギと相対していた。
調査が完了すると冒険者の登録カードに記録されるらしい。
わからない事があったらヘルプ機能もある。
端っこの方を撫でると、音声での案内もあったりする。
この世界では――冒険者になる様な人だと特にそうなのだが――学校に行ってなくて文字が読めない人が多い。
義務教育とか無いんだな。
だから音声でのやり取りしている奴らが多くて、カード相手にお喋りしてる鎧の剣士っぽいのもいた。
なんだかその姿はどうにもマヌケっぽかったが、時夫以外の人はなんとも思っていない様だった。
ところ変われば常識も変わろうというものだ。
なんなら、銀色のカードと対話していた剣士は周りから一目置かれている雰囲気があった。
ルミィのカードも銀色だから、ソイツもクラス2って事なんだろうな。……クラス2って凄いのかな。実はルミィって名の知れた冒険者だったりするのか?
神官兼やり手の冒険者。
うーん……そう言うカッコ良さげな肩書は時夫が欲しかった。
何はともあれ、時夫とルミィは動きやすい格好で北の森の方までやってきた。
ルミィは風の魔法で、時夫は『ウサギの足』とその他魔法の連続使用で結構なスピードで移動した。
やはり街中よりは外の方が障害物が少なくて思う存分全力でやれるな。
まあちょっと疲れたけど。
魔力はまだ八割くらいはある気がするから、多分帰りまで持つだろう。
森に入った感じは全然普通だ。
ここの何処かでテオールの父親が迷っているのか。あるいは怪我でもして動けないのか。
てっきり既にいなくなって何日も経っている様だし、捜索されているのかと思っていたが、ルミィ曰く、冒険者が仕事の最中いなくなるのはあるある過ぎて放置されているらしい。そうと知っていれば、もっと早くに探しに来たのにな。
因みに登録は、一年仕事をしていなければ勝手に削除されるのだとか。
扱いが色々雑だ。
いなくなってからの日数を考えると、最悪の事態も想定しなくてはいけないだろう。でも、できればテオール達に父親を返してやりたい。
せっかく母親はこれから元気になりそうなんだ。
見つけた時用に飲み物と、消化に良さそうな食料を空間収納に買っていれておいた。
他にも着替えとかもある。
ちょっと買い過ぎたので、ルミィにお金を借りている。
是非とも出費が無駄にならない結果を時夫は望んでいる。
「結構人の手が入れられてるのか?この道とか結構広いし」
時夫はキョロキョロしながら不審なところがないか観察する。
都会っ子だから時夫はそもそも自然には詳しくないが、危険はできるだけ早く察知しておきたいのだ。
時夫の薄茶の前髪が木々を抜ける風に揺れる。
『探索』は時夫の持ち物にしか反応しない為、この状況下では、通常ならばテオールの父親のウィルには使えない。
そう、通常ならば。
実は、冒険者ギルドを一旦出てからウィルの姿に変身して、ウィルの登録カードを再発行してもらったのだ。
本人証明を求められたので、テオールに頼んでウィルが大工の組合に入っていた時の証明を借り受けて、手数料を払ったら即時発行された。
中々手間をかけたが、これでウィルの登録カードは時夫の物となった。
……と言う認識だ。
そして、ウィルが持っている前のカードも時夫の物である……と言う認識にする。
我ながら無茶苦茶言っている気がしたが、生活魔法はその無茶苦茶に応えてくれ、森の奥の方に前のカードがある事が何となく感じられるようになっている。
登録カードを誰かに奪われたり、落としたりしていなければ、カードのある場所にウィルはいるはずだ。
時夫は『探索』の効果が元の姿に戻ったら切れるんじゃないかと心配で、念のためにウィルの姿を維持している。
顔まで別人の姿を保つのは魔力の消費が大きいから、ルミィはあまりやらないらしい。
だから髪と目の色だけいつも変えているっぽい。
「今のところ普通の森だな」
時夫にはこの森の異変はわからない。
「もっと奥に行かないと異変は無いのかも知れませんね。
ここは材木のために入る人もいますし、動物も沢山いたり、木の実やキノコや……後は魔石もたまに落ちてたりするから冒険者御用達のスポットだったんですけどね」
ルミィも周囲を観察しつつ返事をする。
「魔石って?」
毎日の様に知らない単語が出てくる。この世界では常識なのかも知れないが、時夫には初めて聞く言葉だ。
「魔道具の核になってる奴ですよ!魔力純度が高いほど透明度が高くて輝きも強いんです。
それに篭っている魔法の種類で色が違うんですよ。変身ネックレスのは炎と光の魔力が篭ってるんです」
「光が変身は何となく分かるけど、炎は関係ない様な……」
懐からネックレスについた石を取り出し観察する。
確かに赤くて炎っぽさはある。
「石を囲んでいる所に魔法陣が刻んでありますよね。光の魔力の入ってる石がその中に入れば、他の石に付け替えても多分使えますよ」
ふーん、と生返事しながら石を弄る。
……ヤベ、取れかけた。
慌ててまた嵌める。ちょっと動かして、ぽろっと落ちないか確認する。
大丈夫そうだ。多分。
幸いルミィは時夫がネックレスを壊しかけた事に気がついていなさそうだ。
まあ、付け替えオッケーって言ってたし、取れるのはそう言う使用なんだ。うん。
ふと、気になった事があったので、よくわからん木の枝になっているよくわからん木の実を観察しているルミィに質問する。
「魔石って装飾品とか魔道具にしないと使えないのか?」
ルミィはよくわからん木の実を手に取りつつ、答える。
「そのままでも使えますよ。その魔石の持ってる力によって何ができるか変わります。
魔力を一切持ってない人でも使えます。ただし、中の力を使い切ると割れちゃってダメになるから注意ですね。
少しでも魔力が残っていれば、時間をかけて周りから魔力を吸収して回復してくれるんですけどね。
そういえば、安くて一つ一つは魔力が少ししか入っていない魔石を敵にバンバン投げつけて魔力を暴発させる冒険者なんかもいましたねぇ。
でも、石そのままなら、基本的には自分の魔法の強化とかサポートに使うのが普通ですよ」
石を投げつけまくるのか……シンプルイズベストで良いな……。でも、安い石でもそれだと結構金かかるんだろうな。
今後の時夫の戦術も広がりそうなので、魔法に関する知見を広げるのは今後も意識していきたい所だ。
ガサガサ……
茂みが動いた!
「何だ!?」
時夫とルミィが警戒すると、
ぴょこん
可愛いうさぎだ!
長い耳とふわふわの毛。元の世界のウサギとほとんど見た目は一緒だな!
赤い目が爛々と光っている。
オデコに長いツノが生えているのが、元の世界との最大の違いだ。
「よーし、よし!人参でも持ってりゃ良かったな」
そこら辺の葉っぱを持って時夫は近づく。
「トキオ!気をつけて!」
ルミィが警戒を解いていない。小動物苦手か?
ガブ!
「いってえ!」
うわぁ!噛みついてくる!葉っぱじゃなくて指に!いたい!血が出る!
「そのウサギは魔獣になってます!」
ルミィが叫ぶ。
「そう言うことは早く言ってくれ!」
ルミィが空間収納から身の丈程の長い杖を取り出した。
細かい模様と装飾が全体に施され、大きな無色透明の日の光で七色に輝く宝石が嵌め込まれている。
ルミィが杖を振るうと、突風が吹き、ウサギは茂みの向こうに飛ばされて行った。
しかし、また茂みがガサガサ、ガサガサと音を立てる。
しつこいウサギだ。
そして、ウサギが姿を現す。
どんどん現す。
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