上 下
7 / 13

序章 どこかの誰かの独白

しおりを挟む
 

 恥の多い生涯なんてもんじゃない。そんな俺の人生本当になんなんだろうか。
 一体何のために、どれの為に、自分という悲惨極まりないものが出てきてしまうんだろうかと常に襲い来る自己嫌悪に轢き殺されそうだし、なんならもういい加減限界まである。
 何故生物は生まれ、何故生かされてしまうのか。生きる意味とは何なのだろうか。俺は常に考える。そして何故死は恐ろしいものなのだろうか。何故恐ろしいと感じてしまうのだろうか。と、そこまでがワンセットでもある。ちなみに何度か首に刃を当ててみたけれどアレを本当に引ける日が来るんだろうかと瞬間でも思ってしまったのも自己嫌悪をより増長させている。 
 要はまだ死ねない。死が怖い。けど死にたい。毎日毎日毎日毎日そんな感情が俺の中に強烈な煙になって肺を埋め尽くし、呼吸の仕方が解らなくなって薬を飲む。……いい加減疲れている。薬を飲む事自体がそもそも延命行為であるのも解っているのに。常日頃矛盾。
 そしてなんで俺以外の人は比較的楽そうに生きていけるんだろうといつも考えてしまう。どんな時でも考える。そんなことを考えながら聴くあのアーティストの楽曲は最高に魂に響く。ああそれが気持ちいいから俺はまだ生きているのかもなあと考える。揺れる。揺れる。今日もやっぱり揺れている。
 ちなみに俺は今携わっている仕事が楽しくないわけでもない。仕事を共にする環境が悪い訳でもない。世間のしんどいランキングは恐らく仕事がトップだろうと思う。けど俺はよりにもよって仕事に関してはそれといった悩みが無い。悩む必要のない環境で給料を貰えているのはとても幸運なんだろう。だから余計に我に返ると息の仕方が解らなくなる。鬱が酷いと仕事中にも過呼吸に近い症状に陥る時がある。そうやってまた迷惑かけてしまうからもっと辛くなる。辛くなるけど周りが優しいから生きているけどそれがまたつらい。なんて下らない思考だ。
 多分、俺はそういう意味では結構『恵まれている』部類に入るんだろう。だから死にたくなってもそう思ったすぐで横一線が引けない。紐を巻けない。アイキャンフライ出来ない。
 もうイヤだ。もうイヤなんだよ。生きていたくないんだよ。こんな自分がイヤだ。
 イヤなのに死ねない。意味不明の理解不能。

 そもそも冷静にならずとも普通なら解るだろ?
 死にたいと口にするとしよう。まあ普通のユウジン位の関係であれば『ダメだよ』だの『生きろよ』だの『なんで? 生きていればいい事あるよ』とか飛んでくるだろうし、恐らくソレが普通でありマトモな意見でもあるのは認めている。
 だけど、それはあまりにも無責任。そうだろ?
 そんなに簡単に生きろと言うならお前は俺の生涯の保証つけてくれるのかと言えばノーだ。じゃあ軽率に生きろとか言わないでほしい。生きてくれよと本気で言うなら俺の事愛してくれんの? 絶対ノーだろ。メンヘラはややこしいんだ。なんだっけ、同情するなら金をくれって滅茶苦茶真理過ぎるよな。

 ーーただ、敢えて訂正をいれるのであればなんだけれど。
 一応だが俺を愛してくれる人もいる。いるにはいる。
 けれどそれは俺の望む愛じゃない。申し訳ないと思う程のそれがあるのに違うんだ。
 だからそれをイヤだという自分がイヤだ。
 俺を愛する人を俺は愛せない。俺が愛した人は皆俺に背を向ける。
 誰にでも選ぶ権利はある。それは解ってるがなんでこうも上手くいかないんだ。なんでだよ。意味が解らない。それなりの年月生きてきてるんだから一度位あってもいいだろ。つまりそれは俺というものがそもそも存在しなくてもいいという意味であり、俺はなんでこんなにもクソなんだ。嫌気がさして数十年にも程がある。
 ただ、俺は愛が欲しい。それだけなのかもしれない。それだけなのに手に入らない。
 愛が欲しい。俺が望んだとおりの形の愛が欲しい。
 けれどそれをもつ人は何故か今でも執拗に俺の背中を刺し続ける。
 誰かは誰かと俺を比較する。
 誰かは事故で死んでしまった。
 誰かは………………なんだっけ。ああもう肝心な部分がぼやけてるのもいる。
 そんな朧気で何が愛だふざけるな。

 俺が覚えているのは、背中を刺される痛みだけ。
 ああでも、なんでだろうな。
 俺を刺している誰かを誰かと認識したら、今度こそ直接首を横一線出来そう。

 ああ……こうして今日も世界が歪んでいく……。
 誰か助けてくれ。
 違う。
 誰か、なんかじゃない。
 明確なあの顔が浮かぶ、あの目が浮かぶ、あの体躯が浮かぶ。
 そして同時に強烈な罪悪感も浮かぶ……。

 ……なあ、頼むよ、いい加減俺の声に気づいてくれよ……。
 そして出来るならもういい加減止めを刺してくれ。
 そして………………。

 
しおりを挟む

処理中です...