無実の罪で断罪される私を救ってくれたのは番だと言う異世界の神様でした

第二部：瑠璃光夫人奪還作戦前夜

何故此奴まで来た？

薬師に時間はあって無きが如しである。

空間を切り裂いて移動する薬師如来には、西河省への道程はひと跨ぎの距離であった。

そう言う訳、とは言わないが、出発までには、念入りな段取りを組む事が出来た。

西河省国守主宰の婚約披露パーティー、またの名を瑠璃光夫人奪還作戦兼、○○○○(ネタバレ起こすので今は伏せておく)作戦の幕開けである。


「人の女房を拐かすとは良い度胸だ。肝っ玉の座った策士かそれとも、只の阿呆か、見物だな」

「薬師様、御言葉がかなり乱れております。お気をつけ下さい」

「あぁ？ 今の俺は『櫂』だ」


何時も以上に言葉が崩れ、若干苛ついているのは、素面の薬師である。

この時ばかりは、一人称『私』が『俺』になる。

その事を知るのは、極親しい人々だけであった。

そんな彼の言葉を諫めた人物が彼、薬師如来の左側の脇侍、日光菩薩である。

薬師が持つ『薬師十二神将』の内の半分、六将と一部隊七千名(7000×6=42000)を束ねる男であった。

因みに蛇足ではあるが､普段彼等が何をしているのかと言うと、7000×12=84000(何故こうなのかは解らないので突っ込まないで欲しいby：ひよこ)の煩悩を除くと言う途方もないお仕事を使命とし、日夜精進しているのである。

と、言うのが定説となっている。


「まぁ、今は身内ばかりですから良いですけど、ちゃんと猫の着ぐるみ・・・・・・着ていて下さいよ」

「お前は……、私がそんなヘマをすると思っているのですか？ 日光」


見くびるな、とでも言うような目で日光を見る薬師に、彼はふっと笑んで、


「解っているならよろしいですが、貴方はナディア様の事になると冷静さを欠いで仕舞われますからね……。念には念を、ですよ」


と、嫌みスレスレの言葉を薬師に放った。

とんだ脇侍である。


「はいはい、お二人とも其処までにしませんか？ 話が遅々として進まなくなりますから…… 」


と、二人の言い合いをいなす声が間から入って来て、薬師と日光は揃って声のした方へと顔を向けた。

其処に居たのは、インテリ感漂うオールバックの男であった。

この男は昭頭羅しょうとらと言って､大日如来が化身化けたと言われている。

そんな男に、薬師は一瞬目を眇めたが、すぐ何事も無かったかのようにアルカイックスマイルをその顔に貼り付けた。

本地仏こそ大日如来だが、今は昭頭羅、何故お前が来た？とは言えない薬師である。

実際、彼を呼んだのは、薬師なのだから。