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第二部:後宮
糸のことポケットと薬師様……って…誰?
しおりを挟む取り敢えずその後、夕食に中華粥ぽい物を頂いたナディアは、ルナティが戻るのを今か今かと待っていた。
漸くと、言っても過言では無い程待ちくたびれたナディアの目前に、出窓からチラチラ覗く黄色い身体と緑の鬣に、彼女は慌てて駆け寄り鉄格子を外した。
『ナディア様朝ぶりですぅ。鉄格子、外せました? 』
「勿論、外しましたわ。コレで宜しいかしら? 」
そう言って一番端の鉄格子を外してみせたナディアはにっこりと笑う。
ルナティが部屋に入るのを見届けるとナディアは鉄格子を元に戻して、チェストから取り出した糸のこを彼に返した。
するするとポケットに入っていく糸のこを見て、ルナティは『コレは中がストレージになってるんですぅ。薬師様に頂いたのです』と、ポロッと言ってしまった。
逸れを聞き逃さなかったナディアは、可愛いく小首を傾げる。
聞き覚えのない名前なのに、何か無性に引っ掛かるのだ。
ぽっかりと空いた心の穴にしっくりと収まるような、或いは、パズルのピースが綺麗に嵌まった時のようなしっくりとした心地よさ。
ナディアの胸にしっくりと収まるその名前。
「ルナティちゃん、その薬師様とはどなたですか? わたくし、何だかその方を知っているような…… 」
ナディアの言葉に思わず食い尽くルナティ。
けれど其処でぐっと自分に待ったを掛ける。
思い出して貰ったのなら嬉しいけれど、そうとも言い切れないナディアの態度。
世界を目にすれば、自分の記憶が失われてると、手に取るように解る筈の今の世界の変わりように、ナディアにショックを受けさせないようにするには、どうすれば良いか。
ルナティに取って思案の為所なのだ。
『ナディア様、いずれ会わせて差し上げます。私達神獣の恩人のような方で、大切な方です…… 』
ナディア様に取っても……。
と、ぐっとこらえ、喉元まで出た言葉を口に出さずに言い終えて、ルナティは其処で会話を一旦途切れさせた。
そんなこの場の空気を読まないナディアでは無い。
聞きたい事は山ほどあれど、彼女もそれ以上薬師の事を聞き正す事はしなかった。
『そうそう、そう言えばこっちに戻り際随分急に賑やかになってたけど、誰か何か言ってた? 』
ルナティにそう聞かれて、「さぁ、外に出てないから何とも…… 」と、言いそうになって、ナディアはハタと気付いた。
そう言えば、婚約披露パーティーをすると言って無かったかと。
それは、誰と誰の?
其処まで考えて、ナディアは考え直した。
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