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第二部

プロローグ③

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風を切り裂く錫杖は同時にアンデット共を、文字通り消し炭に変えていた。

中央突破とばかりに突き進んで両断される風が左右に流れると、其処から波紋のようにアンデット共が、炭となって風にさらわれる。

ちょっとした砂嵐が、駆け抜ける薬師から巻き上がるのは、反則だと言っても良かった。

これは、戦闘とは言えない。

人が起こす技では無いからだ。

元々聖属性の錫杖である得物の刀身で風を切った際に、聖なる力を風に乗せるなどという力業は人の身では出来ない。

風はあくまでも風属性で有り、この世界の人間は、魔力の色でもって属性が決められているのだから。

大抵は独りに一属性が与えられ、多くても二属性が関の山だと言うこの世界の住人に、薬師のような芸当はハナから出来ないと意志付けられている。

それがこの世界の理だった。

魔力の色が五色あれば属性も五色有るのがこの世界のパワーで有り、それはバランスでもって保たれている。

俗に言うパワーバランスと言う奴だ。

森、炎、水、闇、そして光。

これら五つの属性がバランスよく保つ事で世界は成り立つ。

そして、薬師はこの世界に属さない人物で有るが為、この世界の不文律に捕らわれる事は無かった。

その結果が風に纏わせる聖なる力と言う訳なのだ。

コレが言いたいが為のこの説明。

お付き合い頂けて感謝感謝。



さてさて、そんな訳で薬師はあっと言う間にキングの前までやってきた。

本当にこの位置まであっと言う間だった。

飛ぶように駆け抜けていた薬師であったが、此処に来て初めて速度を落とした。

目の前にただ掲げていた錫杖を薬師は振りかぶるとその場に停止し、その瞬間振り降ろした。

振り降ろされた刃は風の刃となり、奇跡を残した。

その勢いは地面を一直線に掘り進める。

その軌道上にはキングが居り、累々としたアンデット達は一瞬で消し飛んだ。

有るのは一直線に筋を引くクレーターと、砂煙、そして焦げ臭い臭いだった。

薬師は辺りを見回すと、ふっと息を吐いた。

とりあえず、アンデットは全部倒れて、居なくなっているようだった。

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