160 / 220
番外編:ソラシア帝国大舞踏会
薬師と番
しおりを挟むシルベスタ侯爵家がその場を辞した後、第二皇子は盛大に溜め息を吐いた。
「何なんですか、あの人は…… 」
「『この世に捕らわれた神』だよ。この世界はあの方の犠牲によって保たれている。と、言っても過言では無いよ。とてもお優しい方だ。良く覚えておきなさい」
皇帝は訝しむ息子を、父の顔でたしなめた。
皇帝が去って行く侯爵家を見つめている。
仲むつまじく寄り添う二人の新米夫婦を、熟年の夫婦が護るように左右に着いている。
ダンスは一時中断して食事を楽しもうと言う話にでもなったのだろう。
一同は所狭しと並ぶ料理のテーブルへとへと向かっていた。
夫となる男が、妻となる女を見てふわりと柔らかな微笑みをたたえると、妻もはにかむように微笑みかえしていた。
急に辺りがざわついた。
会場の入り口付近が何か騒がしい。
薬師が眉を寄せ、ナディアの為に取り分けていた皿をそのままテーブルに置く。
賊が襲って来たら最悪自分が出ると、薬師はナディアに囁いた。
薬師がナディアを隠すように前に立って居ると、「どけっ、番が、俺の番が居るんだ!」と言う声と、「招待状が無いと入れないんです」と言う近衛騎士の声もしていた。
ぞんな押し問答を突破して来て、会場の中央に躍り出てきたのは、なんと獣人であった。
「「あ、もふもふ」」
流石、夫婦。
見事にハモった。
「あぁ~、居た!! 我が番っ!! 」
そう叫んで再び駆け出す獣人は真っ黒なふさふさ尻尾と大きな耳が特徴の狼だった。
そして薬師は気付いていた。
狼獣人が真っ直ぐ己の所へ駆けて来るのを。
満面の笑みが怖い。
何かに取り付かれたような男の恍惚な表情。
獣人の番は、確か男女、同性同士は無かった筈と考えれば、自ずとターゲットはナディアだと気付く。
薬師は其処まで瞬時に理解した。
そしてナディアを真後ろにかくして居る薬師に突進して来ると言う事は……。
薬師は其処まで分析して、溜め息を吐いた。
どこからどう見ても薬師は男なのに(麗人だけどね)狼獣人の彼にはそうは見えなかったようだった。
「我が番っ!」
「悪いが俺は男だ」
そう言って薬師は突進する狼獣人を、足払いでバランスを崩し、手刀で地面に叩き伏せたのだった。
0
お気に入りに追加
1,544
あなたにおすすめの小説
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
【R18】さよなら、婚約者様
mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。
ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!?
それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…!
もう自分から会いに行くのはやめよう…!
そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった!
なんだ!私は隠れ蓑なのね!
このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。
ハッピーエンド♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる