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番外編:ソラシア帝国大舞踏会

薬師と番

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 シルベスタ侯爵家がその場を辞した後、第二皇子は盛大に溜め息を吐いた。


 「何なんですか、あの人は…… 」

 「『この世に捕らわれた神』だよ。この世界はあの方の犠牲によって保たれている。と、言っても過言では無いよ。とてもお優しい方だ。良く覚えておきなさい」


 皇帝は訝しむ息子を、父の顔でたしなめた。

 皇帝が去って行く侯爵家を見つめている。

 仲むつまじく寄り添う二人の新米夫婦を、熟年の夫婦が護るように左右に着いている。

 ダンスは一時中断して食事を楽しもうと言う話にでもなったのだろう。

 一同は所狭しと並ぶ料理のテーブルへとへと向かっていた。

 夫となる男が、妻となる女を見てふわりと柔らかな微笑みをたたえると、妻もはにかむように微笑みかえしていた。




 急に辺りがざわついた。

 会場の入り口付近が何か騒がしい。

 薬師が眉を寄せ、ナディアの為に取り分けていた皿をそのままテーブルに置く。

 賊が襲って来たら最悪自分が出ると、薬師はナディアに囁いた。

 薬師がナディアを隠すように前に立って居ると、「どけっ、番が、俺の番が居るんだ!」と言う声と、「招待状が無いと入れないんです」と言う近衛騎士の声もしていた。

 ぞんな押し問答を突破して来て、会場の中央に躍り出てきたのは、なんと獣人であった。


 「「あ、もふもふ」」


 流石、夫婦。

 見事にハモった。


 「あぁ~、居た!! 我が番っ!! 」


 そう叫んで再び駆け出す獣人は真っ黒なふさふさ尻尾と大きな耳が特徴の狼だった。

 そして薬師は気付いていた。

 狼獣人が真っ直ぐ己の所へ駆けて来るのを。

 満面の笑みが怖い。

 何かに取り付かれたようなの恍惚な表情。

 獣人の番は、確か男女、同性同士は無かった筈と考えれば、自ずとターゲットはナディアだと気付く。

 薬師は其処まで瞬時に理解した。

 そしてナディアを真後ろにかくして居る薬師に突進して来ると言う事は……。

 薬師は其処まで分析して、溜め息を吐いた。

 どこからどう見ても薬師は男なのに(麗人だけどね)狼獣人の彼にはそうは見えなかったようだった。


 「我が番っ!」

 「悪いが俺は男だ」


 そう言って薬師は突進する狼獣人を、足払いでバランスを崩し、手刀で地面に叩き伏せたのだった。



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