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神獣青龍『香燕』
哪吒と愛染④
しおりを挟むそんなこんなで解放された哪吒であったが、何を思ったか、ガバッと立ち上がり薬師に跳び掛かった。
突然の襲撃だが、そこはそれ薬師の方が一枚上手。
一歩地面に着いた哪吒の足を見事に足払いでバランスを崩させ、多段攻撃で腹に膝を打ち込み、吹っ飛んで行きそうになった所をむんずと衣の合わせを掴んで引き戻す。
一連の動作を、薬師は秒でやってのけた。
されるがままの哪吒は、今何が起こったのか解らぬ儘に金輪に額を締め付けられた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ…… 」
断末魔のような悲鳴を上げる哪吒を、薬師は放り投げると、哪吒が地面を転げ回る。
逸れを見下ろす薬師の顔は表情が全く無く、まるで面を付けているようだった。
慈愛の表情でもって、生きとし生けるもの、総てを救済しようとする薬師も本音で有れば、何の感情も見せず、淡々と粛正する薬師も本音だった。
仮にも哪吒は戦神である。
そんな彼をも凌駕する薬師と言う神は、戦神では無いと言うのにこの強さ。
この物語の冒頭で、月光が言った「薬師様は強いよ」発言はあながち嘘では無かったのだ。
あまりの痛みに、額の金輪を外そうともがく哪吒を、薬師は感情のこもらない目で値目付て、ジッと見下ろした。
「痛いだろう? その痛み忘れるなよ」
薬師がそう声を掛けると、不思議と痛みが嘘のように引いて行った。
金輪の締め付けから解放されたのだ。
ゼイゼイと荒れる息を即座に整えるとふっと息を付いた薬師を見やる。
それを見逃さなかった哪吒は、小鳥になった愛染を見ると、
「愛染! 必ず助けに来るから待ってろ! 」
そう言って跳びすさり、その場を離脱しようとした哪吒に、薬師はのほほんと言い放った。
「コレは罰では無くて試練だ。さっさと徳を積んで愛染を元に戻せよ。慈悲だ、今からひと月やろう。逸れを過ぎれば愛染はこのままだ精々頑張れ…… 」
そうにっこり笑って言われて哪吒はギョッとした。
薬師の目が笑って居ない事がこんなにも怖いとは、思ってもいなかった彼だった。
呆然とする哪吒の襟首を、薬師はむんずと掴むと、そのまま彼を勢い付けてほおり投げた。
悲鳴と罵倒を撒き散らしながら哪吒が飛んで行くが、投げた薬師はどこ吹く風だ。
パンパンと格好だけで手を払うと、
「うん、スッキリしました」
そう言ってにっこりと、瞳まで煌めかせて彼は笑った。
「あの……、薬師様。この子、あの男の子が失敗したら、本当に小鳥の儘なのですか? 」
ナディアは鳥籠を覗き込んで、薬師に告げた。
不安げな彼女の表情に、薬師は「ナディアは優しいね」と、良いながらなでなでと頭を撫でる。
ナディアは鳥籠を抱えたまま薬師を見上げた。
「小鳥のままにはしておかないよ」
薬師はそう言って笑う。
普通に考えた罰では彼等を改心させられない、寧ろ喜ばすだけだと悟った薬師は、別の方法に思い当たった。
彼等の共依存。
それに目を付けた薬師は天才だった。
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