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神獣青龍『香燕』

白龍の治療とナディアのキス

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 『どうやらアレが目的地のようですよ』


 薬師が見詰めた先には、重厚で巨大な扉が岩肌に埋まるように取り付けられていた。


 扉の向こう側にはきっと彼が待っている。


 観音開きの扉を今度は押し開けて、一同は中へと入ってゆく。

 青く、クリスタルのような塊に、人が内包されている。

 その身体の半分が、黒く焼け焦げているのが見て取れる白髪の青年。


 「あ~、ナディアちゃん見ちゃ駄目。違うと解っててもまぁ、全裸だし…… 」

 『やっぱり、もしやと思っては居たのですが…… 』

 「薬師様を見て、白龍って叫んでましたもんね、青龍が…… 」


 月光、薬師、日光の順に感想を漏らし、


 「やっ、薬師様が凍ってますっ!? どういう事なのでしょう」


と、ナディアが顔を隠しつつ、指の間から火傷をする前は全身白だったのだろう、薬師に瓜二つな白龍をちらちらと見ていた。


 『取り敢えず中身を取り出そう。手順を言うよ…… 』


 薬師の言う手順はこうだった。

 まず、転移の上位バージョンの転送で薬師が中の白龍を取り出す。

 取り出せばすぐさまナディアが薬壺から薬を出して白龍に飲ませ命を身体に留まらせて、魂だけの薬師が身体に入り中から治療を施すと言う手順。

 白龍は、造りが薬師と瓜二つな為、魂の出入りには問題は無いだろう。

 とのこと。

 多分。

 何事にも、多分と言う言葉付きだが、初めての経験故に、想像の域を越えられないらしい(薬師談)。

 で、躊躇していても致し方ないと言う訳で、行動に移した。

 薬師が転送で白龍を取り出し、ナディアがすぐさま薬を飲ませようとするが、白龍の口の中に唾液すら無かったせいか飲んでくれない。

 ナディアはおろおろと一瞬戸惑ったが、薬師から貰ったストレージからポーションを取り出して、薬と共に口移しで薬を飲ませた。

 薬師ならきっと同じ事をするだろうと思って。

 まぁ、相手が薬師と同じ顔の男だったから出来た芸当かも知れないが。


 『ナディア、身体が戻ったらお仕置きしますからね。覚悟しておいて下さいね』


 と、ナディアに耳打ちして薬師は、白龍に入ってしまった。

 怒っている訳では無いのだろうが、ご愁傷様としか言えない。

 ナディアに向かって、「ナディアちゃん頑張っ! 」「ご愁傷様です。ナディア嬢」と、脇侍二人労(い?)った。

 そんな会話をしているうちにも、白龍の火傷は皮が剥がれるように見る見るうちにポロポロと剥がれ落ちて、桃色の出来たての肌を惜しみ無く見せていく。

 裸体では有るが、勿論、白龍にはストレージから取り出した毛布を掛けている。

 安心して下さい、見えてませんよ。

 ご令嬢には、いらぬ刺激ですからね。


 そして、完全に治療は終わり、薬師が中から出て来た。


 『強行しましたが、概ね大丈夫ですよ。後は意識が戻るだけ…… 』


 そう言って薬師は白龍を見詰めた。

 一拍して、白龍からうなり声が聞こえて来た。

 酷く小さくて、細い声だった。




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