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神獣朱雀『エレオノラ』

異空間移動

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 日光が部屋を出て二十分程が経過した。

 言っていただけあって遠いようだ。

 往復で四十分、皇宮も馬鹿に出来ない広さだ。

 逸れをやっとの事で済ませて戻って来た彼は、「遅いよ」と、理不尽にも薬師に言われてしまった。


 「遅いと思うんなら自分でどうにかして下さい。貴方なら異空間同士繋げてどこでもドアでも作って移動可能でしょうが」

 「う~ん、これ以上出鱈目な事して引かれるのは嫌だなぁと…… 」

 「そ「それ、手遅れですからっ! 」! 」


 何故か、脇侍二人が同時に叫ぶ。

 月光は突っ伏していた顔を上げ、日光はそのテーブルに、『 だんっ! 』と、地図を叩き付けながら。

 その勢いに、朱雀の食事後の食器を下げていた悉陀は御盆を落としそうになり、おしゃべりしていたナディアと朱雀はお互いにきゃっ、と悲鳴を上げた。

 因みにテーブルに突っ伏して死んでいたルナティは勢いで跳ね飛ばされていた。

 残念な面々だった。


 「おぉ~怖っ~」


 と、のたまう薬師に怯える影など有りはしない。

 口だけ状態で薬師のやる事と言えば、地図を広げる事。

 そして、逸れを広げて見てみれば、世界の成り立ちは彼等(薬師と脇侍と悉陀の事)にとって、とても解りやすかった。


 「あはっ、単純明快ですね」


 薬師がそう言うと、日光月光が地図を覗き込む。

 中央に縦と横に並ぶ山脈が四つの国を分断している上に、東西南北に従って国と四神が配置される形になっている。


 「めっちゃ分かり易いけど、移動となるとめんどくさく無い? この山脈越え」

 「それ以前に、流石箱庭ですね。各々の大陸の二辺が海だ」

 「この海に、果ては有るのでしょうか? それともループしているとか? 西と東、北と南って具合に」


 月光、日光、のぞき込んできた悉陀と、三種三様の感想が湧いて出て面白い。


 「西の白虎、東の青龍と言いますからね、無難に大地を行くか、日光の言う通り空間を繋げるか…… 」


 薬師はそう言いながら、指で空間に窓を作って見せた。

 そしてチラリと中を覗いてみた。

 何故か、窓は開けない。

 そして、深い溜め息を付いた。


 「薬師様? 」


 彼の態度に、不安げに呟いたのはナディアだ。

 薬師は、左手で窓を押さえたまま、右手をそっと開けた窓の隙間に差し込み一瞬で抜き去った。

 その瞬間に窓は跡形もなく消えていて、それと同時にナディアの悲鳴が上がった。


 何故か?


 薬師の右手が血に染まり、ポタポタと絨毯に緋色の染みを作っていたからだった。

 そんな状況でも、薬師はにっこりと笑っていた。

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