30 / 220
神獣白虎『ルナティ』
世界が壊された理由③
しおりを挟む「はいっ、ストップ。薬師様、過度なスキンシップは其処までにして下さいね。まだ敵の名すら聞いていない段階でいちゃつくのは止して下さいね」
同じ様な意味の事を違う言葉で二度言われたような気がすると、日光の言葉に眉を潜める薬師様。
「はぁ………、わかりました。でしたら、さっさと終わらせましょうね」
薬師から笑顔が消えて、真顔になる。
美しく整った顔をしている分、表情に薄くとも笑みが無ければ氷のように冷たく感じられるのは、気のせいでは有るまい。
『美貌の主』と言う者はそれだけ冷たく映るものだ。
今の薬師は、まさしくそれであった。
「敵と言っても過言ではないとも言える二神とは、愛染明王と哪吒太子だ」
「あ~ 、寄りによって、あの質めんどくさい二人ですか」
薬師の言葉に、 すぐさま反応したのは日光だった。
「そうですね。あの質めんどくさい子供とお釜です」
「薬師様、それを言っちゃお仕舞いです」
「私は嘘は言ってませんが、何か問題でも?」
「すいませーん。問題ないっす」
緩く睨む薬師に、たじっとする月光。
二人の言い合いは掛け合い漫才のようで、少し場が和んだような気がした。
「愛染明王と哪吒太子、どちらも神様なのですねぇ……… 」
そう言って間延びした声を上げ、溜め息を吐くのはルナティで、どこか不安げだ。
ぬいぐるみなので表情は無いに等しいが、声音で不安なのだと言う事が解った。
しゃらりと薬師の耳元で、装飾具が美しい音色を立てた。
彼が円卓に身体を寄せて、ルナティに向かって手招きをしたせいだった。
何事かと首を傾げながらトコトコと薬師の手元に移動したルナティは、突然その頭をぐりぐりと撫でられて驚いた。
「そんな『不安です』みたいな声を出すな。何の為に我がいる。きっちり彼奴ら捕まえて、お前達を解放してやる」
そう言ってふっと笑って、
「私は、ナディア嬢がこの世界でその寿命を全うするまで、彼女と共に老いて行こうと思っています。ですから………、心配無用ですよ。何かあったら相談位なら乗って差し上げます」
薬師にとっては当たり前の事で、彼等にとっては爆弾を投下するかのような発言を、あっさりと彼は言ってのけたのだった。
「先ずは四神の解放ですが、ルナティは姿が違うだけで問題ないですね。だとすると、「えっ!?」」
やはり、そう来て当たり前か。
予想通り悲鳴を上げたのは、ルナティだった。
「私の姿、この侭なんですかぁ~~!? 」
わちゃわちゃと、手足を動かして嘆くルナティを見て、薬師がにっこりと口角を上げて笑った。
どう見ても、意地の悪そうな微笑みを唇に刻んでいる。
「この侭の方が愛嬌があると思うのは、私だけですかね? 」
この男、しれっと言ってのけたよ。
少し、ルナティが可哀想に見えたのは、言うまでも無い。
所詮、弄られキャラのルナティであった。
0
お気に入りに追加
1,544
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【R18】さよなら、婚約者様
mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。
ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!?
それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…!
もう自分から会いに行くのはやめよう…!
そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった!
なんだ!私は隠れ蓑なのね!
このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。
ハッピーエンド♡
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる