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長い1日の始まり

prologue②

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   手始めに現れた魔獣は、『犬の群れ』だった。

   それはやはり只の犬では無く、野犬に近い。

   勿論、此処に集められる物は、魔獣だったり、魔人だったり、モンスターだったりする。 

   それが、弱い者順で放たれるのだから、闘技場とは良く言ったモノだ。


   そんな中、騎士団は、精鋭と言うだけあって強かった。

   四連勝、負けなしである。

  当たり前か、負ければ自分達だけで無く、ナディアやその家族も死んでしまう。

   必死だった。

   神にもすがるその思い。

   ナディアが思い、騎士団長が思い、両親が、弟が、お互い皆を思って神に祈った。

   すがりついた。

   そうしても、命の灯火は少しずつ目減りし、騎士団員は、疲弊する。


   限界が近かった。


   「此処まで持ちこたえるとは、思わなんだわ」


   皇太子が苦々しい表情で揶揄する。

   最低のクズ男だった。

   こんな男では無かったのに。

   恋は人を駄目にするのか ?

   謎である。



   騎士団長自らが、最後の一体を屠る。

   ゴルゴンと言う巨大な角を持ち、毒の息を吐く猪突猛進型の牡牛が六体出現したのが、五戦目だった。

   そしてまた、闇から何者かが這い出て来る気配がする。


   「糞っ、いくら倒しても切りがない!! それに、倒す度に強い敵が現れるっ」


   騎士団長の叫びに、ナディアは、只ひたすらに祈りを捧げる。

   彼女には、それしか出来ないから。



  『凪、何かあったら必ず俺を呼ぶんだよ』



   何故だろう。

   鮮明に頭をよぎった言葉と声。

   聞き覚えなど無いのに、懐かしく聞こえるこの声は、誰?



   「なっ……… 何なんだ、あれば……… 」


   騎士団長の声が戦慄わななく。

   滲む声に恐怖が潜む。

   

   闇から現れたのは、魔獣では無かった。

   巨大な顔が浮遊する形で前に進み出て来た。

『  ガジャン』と、言う音と共に顔が横にスライドされ、別の顔が現れる。

   それは、前後左右に四面ある四面体の何かだった。

   こおぉぉん、こおぉぉん、と言う音を立てて、口がカコンと開く。

   キュイイィィン、と音を立てて口の中が光り出した。

   
   「くっ、何か来る。もう駄目なのかっ! お嬢様だけでもっ!! 」


   騎士団長が、悔しげに呟いた。
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