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社交の場
思い出して、思い出さないで
しおりを挟むぽやぽやと事の次第を見詰めていたサクラの目の前で、男爵の身体が大きくなり洋服をビリビリと引き裂いていきます。
男爵は、半人半獣の狼男へと変化したのです。
「グオオオオオオ-ッ!! 」
叫びながら突進して行った先は、睦月の所では無く、サクラの方でした。
「紫苑守れっ!! 」
どこからしたとも言えない声と急に現れた銀色の視界に加え、何故か腕を取られ抱き込められたサクラ。
そして、サクラの側から発せられた女の子のような高い声。
ぎゅっと抱き締められる暖かな温もり。
「紅子、殺せ」
紫苑と呼ばれたのは、茶髪で縦ロールで紫苑色のふわりとしたエプロンドレスの女の子の御人形。
俗に言うアンティークドールと言う代物です。
それが何処からか急に現れて、男爵に迫って行きました。
そして紅子と呼ばれた女性は、睦月の連れていた赤い振り袖美女。
すると、紫苑がドレスのスカートの中から自分の倍の長さの剣を取り出し、駆け出す紅子の爪が有り得ない長さにシュッと伸びて、
『うちの朔夜に触るでないわっ!! 』
「睦月様の命です。お逝きなさい」
それぞれ叫ぶように言って、1人が首を跳ね、1体が胴体を袈裟懸けに切り倒しました。
「なぁに? 何が起きたの? 」
サクラが抱き込まれた腕の中で呟くと彼女を抱き込んだ男の子が答える。
「だ~め、君は見ちゃいけないよ」
「貴方はだあれ? 」
「さぁ? 誰かな? 思い出してよ。……嫌、良いや。やっぱり思い出さなくても……良い」
そう言われてサクラは、男の子に尚一層ぎゅっと抱き締められた。
「ん~~? 会ったことある? のかなぁ………?覚えてない……です……ごめんなさい」
サクラが申し訳無さそうに謝罪すると、男の子はぎゅっと震える肩で彼女をジッと抱き締めてそしてぱっとサクラを解放しました。
「覚えてなくて当たり前。気にしないでね」
そう言うと男の子は、ふわりとした優しげな表情でサクラを見た。
その微笑みが、ふとどこかで会った気がするとサクラの脳裏に警鐘を鳴らしたのですが、こんなサクラです。
思い出す事はありませんでした。
雛の記憶が、あるのにね。
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