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ビクンと反応した合坂が『Yume』の首筋から顔を上げてこっちを見た。

怪訝そうに眉を寄せる表情。

そのまま、『Yume』の腕を掴んだまま固まって居る。

そして。

徐に、口を開いた。


「あんた……誰? 何の権限で俺に暴言を吐く? 」


ふっ…………。

俺は、うっすらと笑みを方頬に浮かべる。

嘲笑とも取れるだろう、微笑み。

矜持が高ければ。

だが、絵画『モナリザ』のように、総ての心の内を隠し通して浮かべる笑みは口元を見ただけでは本当の意味合いは、解らない。

俺は、そう言う微笑みを、『演技』として合坂に見せ付けた。

合坂が、俺の表情全体を見て怒れば、合坂の勝ち。

奴が、見た目程、馬鹿では無いと認めよう。

けれど奴が俺の口元だけを見て何の言葉も発しなければ、手酷く糾弾しようと思う。

まぁ、俺だってとやかく言う程人生深く生きてはいないが、一般常識位は弁えている。


「俺が誰か? 逸れくらい、さっきの話の流れで気付かないのかな? 」


口元だけの笑みを続けていれば、俺が媚びを打っているとでも勘違いしたのか、合坂の表情が緩む。 

言葉は辛辣で、馬鹿にした感満載なのに、視覚で取り入れた情報に惑わされて真実が見えていない。

結果は見えた。

さぁ、この落とし前、

付けさせて貰おう。 

伊達に昔、『氷の皇子』とは呼ばれていた訳では無い。

今でこそ、成人して普通に社会に出て世俗で鍛えられた。

押す事も、或いは引く事も、怒りを抑えて微笑む事も覚えた。

その上で、あの呼び名は、ただ単なる、見た目だけの呼称ではないんだ。

俺の気性も含まれる。

そう、姉曰わく、牙を剥いた俺は、かなり『面倒くさい男』らしい。


「そう言えば、『mahiro』が此処に来ているって、サングリアの社長さんが言ってたよな…………。あんた、『mahiro』か………… 」


ふ~ん。

覚えていたか。

姉貴の捨て台詞を。

合坂が、怪訝そうな表情を見せた。

俺の顔に浮かぶ表情を見て。

取って付けた営業用スマイルから、本来の微笑みへ。

変わった表情に、合坂の顔色も変化していた。


「御明察。と、言うか、まぁ、この状況で解らなければ、只の馬鹿だけどな………… 」


言葉に絹など着せない。

何処までも辛辣に。

濁す事無くはっきりと。

言わなきゃこの男、只の筋肉馬鹿だから。

俺がそう思う程に、合坂と言う男、高身長でマッチョだ。

その身体に似合わぬ甘いマスクを付けた顔を持つ頭部が身体の上に乗っている。

如何せん、バランスが悪い。

けれど、コレが奴に不動の人気を与えているのだから、世間とは、可笑しなモノだ。

『キモカワイイ』と、言う言葉の延長線上に、彼のこのアンバランスさが有るのだとしたら、俺は迷わず納得するだろう。

などと、思考を巡らせている。


「合坂 一。あんた、このCMの企画書、ちゃんと目を通して来たのかよ……。その演技さ、コンセプト理解してやってんの? 」

「あ? あんた、誰に向かって、そんな偉そうな口叩いてんの? 」


合坂の言葉が、俺の予想を上回る。

ちらりと横目で社長と、監督を見ると、ぽけっと開いた口が塞げなく成っている。

これほど、我が儘で傲慢な男だったとは、俺自身、予想外だ。

俺は、合坂の言葉を完全無視して、モニター横から撮影現場に足を向けた。

途中、上着のポケットからコンタクトケースを取り出して、黒のカラコンを直し、ドリンクの置かれたテーブルに置いた。

そして、素の瞳で奴を睨み付けた。

勿論、己の瞳の強さを理解していながら。

合坂は、驚いた顔で俺を見ている。

どうせ、カラコンと脱色で出来た紛い物だと思っていたんだろうな。

俺にとって、黒髪、黒目が紛い物だとも思わずに。

そして俺は、頭に手をやると、するりとカツラを引き抜いた。

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