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「真紘、取り敢えず荷物降ろしてらっしゃい。部屋はそのままにしてあるから。降ろしたらリビングにいらっしゃい。一緒にお茶しましょう」


母さんが俺の部屋の前で立ち止まるとそう言った。

俺の部屋も、長い廊下と庭に面していて、障子の引き戸だ。

けど、開けてみると、意外と中は洋間の造りに成っていて。

荷物の殆どは此処に置いて行っているから、高校生の時のまま、此処だけ時間が止まって見えた。

塵ひとつ無く、綺麗にかたずけられている部屋を見て、僅かながら罪悪感が心を過ぎる。

前回この家に立ち寄ったのは何時だったか?

随分と帰って居なかった事に、今一度思い当たって、俺は、荷物を降ろしながら溜め息を付いた。


両親共に、寂しかったに違いない。





ことり。

ダイニングテーブルの決まった場所に座ると、紅茶のカップが置かれた。

今日は、母さんの好みで紅茶らしい。

目の前に母さんが座って、一口紅茶を啜って言った。


「真紘……、また、あのバイトするんですってね。大丈夫? かあさん心配 」

「ん、大丈夫だよ……。今度は俺の意志でやる事だから 」


本当に心配そうな母さんの声音。

あの頃を思い出して心配なんだろう。

本当、『mahiro』には振り回されたから。

母さんは、逸れを間近で見て来ていたから。

とても心配してくれている。


「お前が良いと言うんだったら、かあさんもう何も言わないけど……何かあったらちゃんと話してよ。父さんもかあさんも真紘の味方なんだから……」


母さんの言葉に、俺は黙って頷いた。
 沈黙。

紅茶のカップを置く音。

ただそれだけがやけに響いた時、キッチンの壁に設置しているインターホンがポロンと音を奏でた。


「ん? 」


顔を上げる俺に、


「きっと彩花ちゃんだわ。今の、門のセンサーが反応した音ね」

「そ、なんだ…………」


そんな会話をしていたら、玄関の方からけたたましい声が響いて来た。


「真紘~っ! 居るか~!! 大変だっ!! 」 


バンっと言う音と共に、どやどやと入ってきたのは、案の定、姉さんだった。


「合坂に嗅ぎ付けられた!! 『Yume』との共演押し切られた! ! ごめん阻止出来なかった!! 」


ゼイゼイと息せききる姉に、俺は、問い掛けた。

だって、可笑しいじゃ無いか。 

企画段階で、合坂は弾かれた筈なんだ。


「何処から漏れた? たかだか宝石店のCMに……。社長、この話、他に知ってる人物は? 」

「私とお前と結芽以外………… 、省吾………。まさか……」

「確定だな、そのまさかだよ。義兄さんがリークしたんだ……」


俺の言葉に、社長は目を見開いた。

 
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