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第一章

ううっ、私の旦那様はとってもかっこよかったのです。誰ですか?醜いと言ったのは

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シンディーは、刀を腰に挿し空から降りてくる人物を、目を輝かせて見つめていた。

遠目だからハッキリ顔は見えないものの、その姿はすらりと高く、程良い筋肉が見て取れる。

白の騎士服は乱れる事無くきちんと着こなされていて、ゼルマキアとは比べ物にならない。

何せゼルは、俗に皇子様服と称される物を、見事に着崩しているのだから。

アッシュが一歩一歩確かな歩みを見せる度、騎士服の上着の長めの裾がはためく。

それがシンディーにとって、とってもカッコ良く見えた。


── あ、アシュヴィン様っ ──


アシュヴィンの姿が確認出来る事に、心を踊らせるシンディーは、二、三歩多々良を踏むように躍り出た。

駆け出そとする時に蹴つま付くのはちょっとしたお約束と言う奴か。


「きゃああああっ!! 」


ベタなドレスの裾踏みに、受け身を取る事無く地面とこんにちわしそうになって、シンディーは間一髪で力強い腕に抱き留められた。


「あぁっ……、ヒヤヒヤさせないでくれ。おっちょこちょいにも程がある」

「ううううう、あ、アシュヴィン様あっ、ありがとうございますっ、」


シンディーを抱き起こして立たせるアシュヴィンに、青ざめるシンディー。

そんな彼女にアシュヴィンは、苦言を呈した。


「本当に君はそそっかしいな。そのまま倒れていたら君の顔が傷だらけになっていたぞ。特に鼻が真っ先に潰れる」


そう言って、シンディーの顎をクイッと指先で持ち上げた。

怪我がないか確認の為だったのだが、コレは巷で言われる顎クイと言う奴だ。

アシュヴィンは、彼女の顔の無事を確認して、ふわっと緩く笑った。

其処でシンディーは初めてアシュヴィンの姿を、頭の先から足の先まで総てを目に映したのだった。

そして、ジッと見詰めたまま呆けていた。


「あぁなる程そうか、だから君のこの鼻は自己主張せず可愛く申し訳無さ程度に出ていたのか…… 」


そう言ってアシュヴィンは、シンディーの鼻先にちょんと指先を触れさせると、くつくつと笑った。

その顔は、一つ一つのパーツが完璧で、その配置も完璧と言える程整っていた。

どう転んでみても、皆が言う醜神とはかけ離れていた。

とある部分を除いては。

顔の右半分と、袖から覗く右手。

其処に這うようにえがかれた緑の蔦と薄青い藤の花。

それは近くでしっかりと見つめると、総て見事に彫られた刺青に見える……痣であった。

これが、アシュヴィンが酬神と呼ばれる由縁だった。



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