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動き出す
アイセンレイトの別名
しおりを挟むクッキーにパウンドケーキ、プリンも作って厨房の料理人と、サンドイッチを作るラスティエル。
逸れを皆に配り、使用人用の食堂で共に食事を取ろうとしたら、皆に怒られ、庭の東屋に追いやられたラスティエルは、ぽつんと独りもさもさと昼食を取っていた。
給仕には、侍女のパメラと言う、本職は女騎士だと言う美少女が付いていた。
コポコボと入れてくれる紅茶が美味しい。
ラスティエルは、パメラに向かって言った。
「ねぇ、パメラ。此方で一緒に頂きませんか? 」
「いいえ、滅相も御座いません、奥様。恐れ多く存じます。我々は旦那様の騎士団兼、使用人となったのですから。そこはきっちりと線引きをさせて頂きませんと…… 」
「でも、独りは味気ないのですよ。寂しいですし…… 」
うるうると、瞳を潤ませるのは解っていてやっているのか否か。
愛らしい容姿のラスティエルには、キラキラした瞳がとても似合っていた。
── はうっ、可愛い過ぎてくらっときたっ! ──
と、パメラがノックアウトしても可笑しくは無かった。
── あぁ、なんて愛らしいの、家の奥様は……。尊い……。 ──
と、まぁ、ラスティエルも、アイセンレイトとは違った意味で信者を増やしつつあったが、その自覚は残念ながら本人には無かった。
そうやって、一通り話し合っていると、
「すいませ~ん、お話中の所申し訳無いんですけどぉ……。其方がラスティエルさん? 」
そう言って、ラスティエルの目の前ににょきっと顔を出したのは、宙に浮いた少女だった。
とっさにラスティエルを庇って前に出たパメラは、流石、騎士と言えよう。
ふあっ、と言う声を飲み込んだラスティエルは、思わず気を失いそうになるのをかろうじて取り留めた。
「フィ、フィリー様っ、駄目ですって急に声を掛けちゃ、兄君に叱られますよ…… 」
と、そう言ってラスティエルの前に現れたのは、不思議な色彩をしたライオンのデフォルメされたぬいぐるみだった。
目立つぬいぐるみは、それだけで何者かが誰にでも解る程有名神であった。
有る意味彼は、フィリーより顔を知られていた。
「はじめまして、ラスティエルざん。僕はソラシア帝国の守護獣をしている白虎、ルナティと申します。アイセンレイト様の言い付けで貴女を守りに参りました」
そう言ってルナティは、ぺこりと頭を垂れた。
「守護獣様が、直々に……ですか? えっ? 」
「はい、アイセンレイト様の御命令でございますから…… 」
「はいは~い、フィリーも居るからねっ! 」
不思議そうにするラスティエルにアイセンレイトの名を上げるルナティの後ろからフィリーが痺れを切らして自己主張に出た。
逸れを見事に無視したルナティは、言葉を続けた。
「アイセンレイト様は私よりずっと上位の神様でございますから。薬王菩薩様があの方の別名ですよ。まぁ、お父上の薬師様は認めてはおられませんが」
「…………はいっ? それはどういう事ですか? 」
「お釈迦様の悉陀様が、アイセンレイト様を欲しがって、無理に脇侍になさったんですよねぇ……。だから薬師如来様が認めて無いんです。まぁ、詳しくはアイセンレイト様から聞かれると宜しいかと…… 」
「いぇ、そうでは無くて…… 」
相変わらず的外れな事を言ったルナティは、ラスティエルの困惑には気付かず、彼女が聞きたかった事は、それ以前の問題であった。
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