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動き出す
釣り人
しおりを挟むアイセンレイトが空を翔られるには理由が有る。
彼は、哪吒の時から扱えた法具が4つと、現在父親の元で修行して扱えるようになった法具が2つの、計6つの法具を扱うとんでもない神様なのだ。
ひとつの法具を扱うだけでも、膨大な神気が必要になると言うのに、アイセンレイトは6つの法具を扱えるのだから、その神気の消費量を考えると、彼の存在は普通では無かった。
だから、とでも言うべきか、それが彼が狙われた最大理由だった。
北の大森林と言う場所は、結構、嫌かなり広大だ。
東京都全域位だと考えて貰えば、解りやすいかも知れない。
東京は横に長いが、長い部分を切り取って短い部分に引っ付けて、四角くしたのが、大森林だと思ってくれれば間違いは無い。
その大森林の中央に有る屋敷から、南へ5キロ程下がった所に湧き水が溜まり池となった場所がある。
其処からは細く水が流れ、川となる場所があり、魚も多く生息している。
そんな自然溢れる場所に、男が1人、池のほとりに釣り竿の糸を垂れていた。
逸れをアイセンレイトが見付けるのに、さほど時間は掛からなかった。
男の真後ろに降り立つ、アイセンレイトとレイは、物も言わず男を凝視した。
「此処に来てはや数日。漸く来たのう。待ちくたびれたよ…… 」
男はアイセンレイトを見ずに言った。
のほほんとした口調で。
「ちょっと困った事が起こってしまっての。この世界にとある問題児が入り込んでしまったのだよ。儂はその者を追って此処にやってきたのだが、君にこの世界に来た者の捜索許可と、手伝いを頼みたいのじゃよ」
そう言って、男は初めてアイセンレイトの方へ向き直った。
短めにざっくばらんに切られた黒髪と、黒い瞳。
その姿は若く二十代前半に見えるが、きっとそれが実年齢では無いだろう。
彼から漂う気は神のそれに近いが、決してそうでは無いと知れた。
「ほぅ、やはり儂の知る李 哪吒とは違うのだなぁ」
そう言う男にアイセンレイトは、一瞬の速さで詰め寄り男の胸倉を掴んだ。
「今の僕は哪吒では無い。一緒にするな…… 」
「承知しておるよ。儂は儂の知る哪吒では無い と言っただけで、お主が哪吒だと一言も言ってはおらんぞ」
と、アイセンレイトに向かってにっこりと微笑んだ。
そんな男に向かって、アイセンレイトは舌打ちで返した。
彼にしては珍しく、態度が頗る付きで悪い。
男はにこにこと笑った儘、言った。
「儂は、太公望と言う。宜しくな」
「は? 」
そして逸れを聞いたアイセンレイトは、変な声を上げて、思わず太公望と名乗った男を離したのだった。
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