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北の大森林の主
急患⑤
しおりを挟む「あぁ、月光。息災で何より。実は、」
其処まで言ってアイセンレイトは言葉を途切れさせた。
何だか月光と呼んだ青年の様子が可笑しい。
目をきらきらさせて、指をワキャワキャさせてアイセンレイトを見ている。
逸れを見て、アイセンレイトは眉間にシワを寄せた。
「ああ-っ、もう、本当、薬師様そっくりに成長されて、俺、感無量っす…… 」
「その、父上のクローンみたいな言い方はヤメロ。これでもちゃんと母上の血も入ってるんだ」
「そりゃあぁ、そうです。坊ちゃんは宵闇の女神様が、お腹を痛めて産んだお子ですからね~。薬師様単独で子供、増やせませんから~」
間の抜けた声音でのたまう月光の言葉に、返せば何故だか何時も、掛け合い漫才のように成ってしまう2人の会話。
そして如何なる時も、頭を抱えるのはアイセンレイトだった。
「あらためて~っ」
にこにこと笑顔を振りまきながら言った月光は、その後、ごふっと息を吐いた。
「うっく、そう言う所は容赦無いっす……、マジいてぇ…… 」
「お前が飛び付こうとした条件反射だ」
「嫌、それ、ちゃいますから……。抱き付こうとしただけっすから…… 」
と、まぁ、こんな会話が続いているが、実はアイセンレイトの右足が、綺麗に月光の鳩尾に嵌まって居るのだ。
痛くない筈が無い。
この場合。
アイセンレイトが15歳の姿であったならば、漏れなく抱っこ状態になってしまう事甚だしいので、彼に取ってはやり過ごしやすい大人の姿で正直ホッとしていた。
と、言う事は、お首にも出さないでいる。
アイセンレイトは、至って冷静な自分を保っているように見せつつ、言った。
「取り敢えず、真面目な話がしたい。じゃれ合いはここいらで終わりだ」
「あ~、もうちょっと再会の余韻がほしかったっす」
「僕はこれ以上要らない」
アイセンレイトは簡潔に言い放つと、右足をゆっくりと降ろした。
しっかりと靴跡が付くシャツをポンポンと払って月光が悪態を付いた。
「ああ、お気に入りのシャツなのに、クッキリ足跡が付いたっ…… 」
「お前が悪い」
「はうううっ」
身も蓋もないアイセンレイトの言葉に月光はうなだれたが、そこはそれ、立ち直りの速さには定評が有る彼はくの字に折っていた身体を正して深呼吸を一つ行った。
「で、坊ちゃん。俺に何をさせたいんです? 」
にっと笑う姿は、今までとは違って少し威厳が漂っていた(あくまでも少しね)。
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