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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(epilogue9)
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――直くんとずっと一緒にいたい。それは俺の一番の願い……だけど。
「……ずっと……俺と一緒にいると、この先、啓太くんのように普通に幸せな家庭を作ることも出来ないんだよ?」
まだ若いし女の子にもモテる直くんなら、この先誰かと出逢って、恋をして、普通に結婚出来るかもしれない。
もしもそういう時が来れば、俺はそれを邪魔だけはしたくないと……頭では考えている。
直くんには幸せになってもらいたい。
それだけは、偽りの無い本当の気持ちだ。でも、そのことを考えると、胸が抉られるように苦しくなる。
その苦しさは本音を隠そうとしているからだと自分では分かっているから……直くんの真っ直ぐな眼差しから、俺は逃げるように目を逸らしてしまう。
「なんで? なんでそんなこと言うの? 俺は透さんともうずっと前から家族になってるつもりなのに」
目を逸らしてしまった俺に、直くんの言葉が追いかけてくる。
「――家族……」
それは、遠い昔はあったような。記憶の底に眠ってしまっていたような言葉。
「そうだよ。俺は透さんのこと、ずっとそう思ってる。 婚姻届も、結婚式も、そんなの関係ない。透さんは俺の家族だよ」
そう言って直くんは、繋いだままだった俺の手を強く握った。
「……直くん」
俺はその手をじっと見つめて……不意に、昔、父が言ってくれた言葉を思い出した。
――『二人共、この手が離れないように、今の気持ちを忘れてはいけないよ』
その瞬間、あの頃の事が次々と蘇ってくる。
そうだ、あの時も……。
――『今日あった嬉しかった事や、楽しかった事や、辛い事も、悲しい事も、一日の終わりに一番に伝えたい相手は、透さんだけ……』
あの時も……。
――『好きな人と一緒に過ごせる幸せを大切にしたい』
直くんは、そう言ってくれたのに。
俺も……
――この先、迷うことや辛いことがあっても、どんな時ももう離れたりしないように。もう絶対この手を離したりしない…………そう思った筈だった。
「透さん、さっき誓ってくれたよね? 俺と、ともに生きることを」
今、目の前にいる直くんの瞳も、真っ直ぐに俺を見ていてくれているのに。なんで忘れかけていたんだろう。
「そうだったね……。ごめんね、直くん。もう一度言わせてくれる?」
うん? と不思議そうに、直くんは首を傾げた。
直くんの瞳を見つめて、俺はさっきと同じ言葉を、ひとつひとつ丁寧に語りかけるように、誓う。
――ずっと……ともに生きていこう。
高い窓から挿し込む日射しが、二人の指に光るプラチナのリングを、より一層輝かせた。
直くんの、クセのある柔らかい髪の毛先にも、穏やかな日射しが当ってキラキラしている。
俺は、直くんの唇に指先でなぞるように触れ、そっと誓いのキスをした。
「……ずっと……俺と一緒にいると、この先、啓太くんのように普通に幸せな家庭を作ることも出来ないんだよ?」
まだ若いし女の子にもモテる直くんなら、この先誰かと出逢って、恋をして、普通に結婚出来るかもしれない。
もしもそういう時が来れば、俺はそれを邪魔だけはしたくないと……頭では考えている。
直くんには幸せになってもらいたい。
それだけは、偽りの無い本当の気持ちだ。でも、そのことを考えると、胸が抉られるように苦しくなる。
その苦しさは本音を隠そうとしているからだと自分では分かっているから……直くんの真っ直ぐな眼差しから、俺は逃げるように目を逸らしてしまう。
「なんで? なんでそんなこと言うの? 俺は透さんともうずっと前から家族になってるつもりなのに」
目を逸らしてしまった俺に、直くんの言葉が追いかけてくる。
「――家族……」
それは、遠い昔はあったような。記憶の底に眠ってしまっていたような言葉。
「そうだよ。俺は透さんのこと、ずっとそう思ってる。 婚姻届も、結婚式も、そんなの関係ない。透さんは俺の家族だよ」
そう言って直くんは、繋いだままだった俺の手を強く握った。
「……直くん」
俺はその手をじっと見つめて……不意に、昔、父が言ってくれた言葉を思い出した。
――『二人共、この手が離れないように、今の気持ちを忘れてはいけないよ』
その瞬間、あの頃の事が次々と蘇ってくる。
そうだ、あの時も……。
――『今日あった嬉しかった事や、楽しかった事や、辛い事も、悲しい事も、一日の終わりに一番に伝えたい相手は、透さんだけ……』
あの時も……。
――『好きな人と一緒に過ごせる幸せを大切にしたい』
直くんは、そう言ってくれたのに。
俺も……
――この先、迷うことや辛いことがあっても、どんな時ももう離れたりしないように。もう絶対この手を離したりしない…………そう思った筈だった。
「透さん、さっき誓ってくれたよね? 俺と、ともに生きることを」
今、目の前にいる直くんの瞳も、真っ直ぐに俺を見ていてくれているのに。なんで忘れかけていたんだろう。
「そうだったね……。ごめんね、直くん。もう一度言わせてくれる?」
うん? と不思議そうに、直くんは首を傾げた。
直くんの瞳を見つめて、俺はさっきと同じ言葉を、ひとつひとつ丁寧に語りかけるように、誓う。
――ずっと……ともに生きていこう。
高い窓から挿し込む日射しが、二人の指に光るプラチナのリングを、より一層輝かせた。
直くんの、クセのある柔らかい髪の毛先にも、穏やかな日射しが当ってキラキラしている。
俺は、直くんの唇に指先でなぞるように触れ、そっと誓いのキスをした。
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