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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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俺がずっと言いたくて、でも会えなくて言えなかった想いは、直くんも同じだった。
もう俺のことなんか、忘れているんじゃないかと、思っていた。
憶えていても、嫌われているに違いないと、勝手に思っていた。
だけど違ったんだ。
「透さんが結婚するって聞いて、マンションに行ったら引越した後で……もう会えないと思うと、息が出来ないくらい辛かった」
静香を俺の恋人と思っていたことや、俺の結婚のこと、そして光樹先輩のこと。
いろんな誤解がすれ違いを生んで、こんなに辛い思いをさせてしまっていたなんて。
だけど直くんも、俺に逢いたいと思っていてくれたことが、俺を好きだと言っていくれたことが、本当に嬉しくて。
「直くん……」
名前を呼んで、一度小さく深呼吸をした。
伝えたい言葉は、直くんに先に言われてしまったけれど……俺にも言わせてほしい。
「俺も……好きだよ」
直くんはゆっくりと俺の肩に埋めていた顔をあげる。大きな瞳は涙で濡れていた。
「俺も、直くんのことを想っているよ」
もう触れることは叶わないと思っていた頬をそっと両手で包むと、瞬きをした瞳から大粒の涙が零れ落ちて、俺の手を濡らした。
だけど何故だかキョトンとした顔をしていて、身動きせずに、ただ俺を見上げている。
「直くん……?」
名前を呼ぶと、俺を見つめる瞳が揺らめいた。
「……キス……しても?」
その言葉に漸く反応して、一瞬のうちに耳まで赤くなる。
軽く触れるだけのキスをして、見詰め合うだけで心の中が温まっていく。
やっと笑顔になった直くんの身体をきつく抱きしめれば、直くんの全部を感じることができる。
少しハスキーなまだ成長途中の声や、細すぎないスレンダーな身体も。
吸い込まれそうに大きな瞳に、長い睫毛や、少し癖のある柔らかい髪も。
女の子のように可愛い顔立ちで、周りを明るくするような威力のある笑顔も。
そして、お互いを想い合う心も。
――全て手放したくないと思う。
「直くんに逢えたら、これを渡そうと思っていたんだ」
カフェのスタッフの皆から、誕生日のお祝いに貰ったという紙袋を大事そうに抱えている直くんの手のひらの上に、リボンをかけた小さな箱を載せると、「……え? これ……」と、大きな瞳を瞬かせる。
「19歳おめでとう」
それは札幌で偶然見つけた、クリスタルのキーリング。買ったのは、誕生日プレゼントのつもりではなかったのだけど。
「うわ……綺麗」
直くんは、クリスタルを街灯の明かりに透かして、目を輝かせている。
街灯の明かりが、中の薄いブルーの星を煌かせて輝いて見える。
その時、冷たい風が吹いて桜の花びらがひらりと二人の前に落ちてきた。
二人の座っているベンチの上に広がる、美しい満開の花を纏った枝の隙間から見える夜空は、さっきまで覆っていた雲が途切れて、美しい星が瞬いていた。
――まるで、直くんと出逢ったあの夜のように。
もう俺のことなんか、忘れているんじゃないかと、思っていた。
憶えていても、嫌われているに違いないと、勝手に思っていた。
だけど違ったんだ。
「透さんが結婚するって聞いて、マンションに行ったら引越した後で……もう会えないと思うと、息が出来ないくらい辛かった」
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いろんな誤解がすれ違いを生んで、こんなに辛い思いをさせてしまっていたなんて。
だけど直くんも、俺に逢いたいと思っていてくれたことが、俺を好きだと言っていくれたことが、本当に嬉しくて。
「直くん……」
名前を呼んで、一度小さく深呼吸をした。
伝えたい言葉は、直くんに先に言われてしまったけれど……俺にも言わせてほしい。
「俺も……好きだよ」
直くんはゆっくりと俺の肩に埋めていた顔をあげる。大きな瞳は涙で濡れていた。
「俺も、直くんのことを想っているよ」
もう触れることは叶わないと思っていた頬をそっと両手で包むと、瞬きをした瞳から大粒の涙が零れ落ちて、俺の手を濡らした。
だけど何故だかキョトンとした顔をしていて、身動きせずに、ただ俺を見上げている。
「直くん……?」
名前を呼ぶと、俺を見つめる瞳が揺らめいた。
「……キス……しても?」
その言葉に漸く反応して、一瞬のうちに耳まで赤くなる。
軽く触れるだけのキスをして、見詰め合うだけで心の中が温まっていく。
やっと笑顔になった直くんの身体をきつく抱きしめれば、直くんの全部を感じることができる。
少しハスキーなまだ成長途中の声や、細すぎないスレンダーな身体も。
吸い込まれそうに大きな瞳に、長い睫毛や、少し癖のある柔らかい髪も。
女の子のように可愛い顔立ちで、周りを明るくするような威力のある笑顔も。
そして、お互いを想い合う心も。
――全て手放したくないと思う。
「直くんに逢えたら、これを渡そうと思っていたんだ」
カフェのスタッフの皆から、誕生日のお祝いに貰ったという紙袋を大事そうに抱えている直くんの手のひらの上に、リボンをかけた小さな箱を載せると、「……え? これ……」と、大きな瞳を瞬かせる。
「19歳おめでとう」
それは札幌で偶然見つけた、クリスタルのキーリング。買ったのは、誕生日プレゼントのつもりではなかったのだけど。
「うわ……綺麗」
直くんは、クリスタルを街灯の明かりに透かして、目を輝かせている。
街灯の明かりが、中の薄いブルーの星を煌かせて輝いて見える。
その時、冷たい風が吹いて桜の花びらがひらりと二人の前に落ちてきた。
二人の座っているベンチの上に広がる、美しい満開の花を纏った枝の隙間から見える夜空は、さっきまで覆っていた雲が途切れて、美しい星が瞬いていた。
――まるで、直くんと出逢ったあの夜のように。
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