出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
337 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―

(102)

しおりを挟む
 俺がずっと言いたくて、でも会えなくて言えなかった想いは、直くんも同じだった。

 もう俺のことなんか、忘れているんじゃないかと、思っていた。

 憶えていても、嫌われているに違いないと、勝手に思っていた。

 だけど違ったんだ。

「透さんが結婚するって聞いて、マンションに行ったら引越した後で……もう会えないと思うと、息が出来ないくらい辛かった」

 静香を俺の恋人と思っていたことや、俺の結婚のこと、そして光樹先輩のこと。

 いろんな誤解がすれ違いを生んで、こんなに辛い思いをさせてしまっていたなんて。

 だけど直くんも、俺に逢いたいと思っていてくれたことが、俺を好きだと言っていくれたことが、本当に嬉しくて。

「直くん……」

 名前を呼んで、一度小さく深呼吸をした。

 伝えたい言葉は、直くんに先に言われてしまったけれど……俺にも言わせてほしい。

「俺も……好きだよ」

 直くんはゆっくりと俺の肩に埋めていた顔をあげる。大きな瞳は涙で濡れていた。

「俺も、直くんのことを想っているよ」

 もう触れることは叶わないと思っていた頬をそっと両手で包むと、瞬きをした瞳から大粒の涙が零れ落ちて、俺の手を濡らした。

 だけど何故だかキョトンとした顔をしていて、身動きせずに、ただ俺を見上げている。

「直くん……?」

 名前を呼ぶと、俺を見つめる瞳が揺らめいた。

「……キス……しても?」

 その言葉に漸く反応して、一瞬のうちに耳まで赤くなる。

 軽く触れるだけのキスをして、見詰め合うだけで心の中が温まっていく。

 やっと笑顔になった直くんの身体をきつく抱きしめれば、直くんの全部を感じることができる。

 少しハスキーなまだ成長途中の声や、細すぎないスレンダーな身体も。

 吸い込まれそうに大きな瞳に、長い睫毛や、少し癖のある柔らかい髪も。

 女の子のように可愛い顔立ちで、周りを明るくするような威力のある笑顔も。

 そして、お互いを想い合う心も。

 ――全て手放したくないと思う。

「直くんに逢えたら、これを渡そうと思っていたんだ」

 カフェのスタッフの皆から、誕生日のお祝いに貰ったという紙袋を大事そうに抱えている直くんの手のひらの上に、リボンをかけた小さな箱を載せると、「……え? これ……」と、大きな瞳を瞬かせる。

「19歳おめでとう」

 それは札幌で偶然見つけた、クリスタルのキーリング。買ったのは、誕生日プレゼントのつもりではなかったのだけど。

「うわ……綺麗」

 直くんは、クリスタルを街灯の明かりに透かして、目を輝かせている。

 街灯の明かりが、中の薄いブルーの星を煌かせて輝いて見える。

 その時、冷たい風が吹いて桜の花びらがひらりと二人の前に落ちてきた。

 二人の座っているベンチの上に広がる、美しい満開の花を纏った枝の隙間から見える夜空は、さっきまで覆っていた雲が途切れて、美しい星が瞬いていた。

 ――まるで、直くんと出逢ったあの夜のように。

しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...