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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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もう季節はすっかり春めいて、昼間はそこそこ暖かいけど、さすがに夜の風は冷たい。薄手のスプリングジャケットだけでは、少し肌寒い。
駅を出て横断歩道を渡ると、通り抜ければカフェレストランまでの近道になるあの公園の入り口がある。
あの出逢った夜の空とは違い、今夜の空は少し霞んでいる。
公園の中は相変わらず薄暗く、通り抜ける人なんて俺くらいで、他に誰もいない。
冷たい夜風が時折頬を撫でるのを、肩を竦めてやり過ごしなら、ゆっくりと公園の中を歩いて行った。
歓迎会で少しだけ火照っていた体温も、気温の低さにすっかり冷めていた。
時間は21時。
直くんが、まだあの店でバイトを続けているとしても、またすれ違いになってしまうかもしれない時間だった。
あのベンチが見えてきて、俺は足を止める。
ベンチの傍にある桜の木が満開になっていた。
そういえば、今年は例年よりも桜の開花が10日くらい早いとニュースで言ってた……。
いつも寂しげに見えていたベンチが、少しだけ華やいで見えて、なんとなく腰掛けてみた。
上を見上げると、美しい満開の花を纏った枝が広がっていて、その隙間から夜空が見える。
――綺麗だな……。と、独り言を呟きながら、心の中では逢いたいのなら早く店に行ってみなければと、焦る気持ちもあった。
だけど……少し怖くて。
逢うことすら態度で拒否されたりしたら、結構ショックだな……。なんて、そんな情けないことを考えていた。
木々に囲まれた公園はとても静かで、通りを走る車の排気音が遠くに聞こえる程度。
その音に混じって砂利を踏む足音が、微かに耳に届いた気がした。
それは、段々とはっきりと聞こえてきて、誰かがこちらの方に歩いて来ているのが分かった。
きっと、駅へ行く為に、ここを通り抜けていく人だろう。
そう思っていた。
駅を出て横断歩道を渡ると、通り抜ければカフェレストランまでの近道になるあの公園の入り口がある。
あの出逢った夜の空とは違い、今夜の空は少し霞んでいる。
公園の中は相変わらず薄暗く、通り抜ける人なんて俺くらいで、他に誰もいない。
冷たい夜風が時折頬を撫でるのを、肩を竦めてやり過ごしなら、ゆっくりと公園の中を歩いて行った。
歓迎会で少しだけ火照っていた体温も、気温の低さにすっかり冷めていた。
時間は21時。
直くんが、まだあの店でバイトを続けているとしても、またすれ違いになってしまうかもしれない時間だった。
あのベンチが見えてきて、俺は足を止める。
ベンチの傍にある桜の木が満開になっていた。
そういえば、今年は例年よりも桜の開花が10日くらい早いとニュースで言ってた……。
いつも寂しげに見えていたベンチが、少しだけ華やいで見えて、なんとなく腰掛けてみた。
上を見上げると、美しい満開の花を纏った枝が広がっていて、その隙間から夜空が見える。
――綺麗だな……。と、独り言を呟きながら、心の中では逢いたいのなら早く店に行ってみなければと、焦る気持ちもあった。
だけど……少し怖くて。
逢うことすら態度で拒否されたりしたら、結構ショックだな……。なんて、そんな情けないことを考えていた。
木々に囲まれた公園はとても静かで、通りを走る車の排気音が遠くに聞こえる程度。
その音に混じって砂利を踏む足音が、微かに耳に届いた気がした。
それは、段々とはっきりと聞こえてきて、誰かがこちらの方に歩いて来ているのが分かった。
きっと、駅へ行く為に、ここを通り抜けていく人だろう。
そう思っていた。
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