出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
328 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―

(93)

しおりを挟む
「婚約解消だけでも大問題なのに、その理由が他に好きな人がいて、しかもそれが男だなんて」

 そう言いながらも、美絵さんは軽蔑している様子もなく、ただ悪戯を思いついた子供のようで……。

「きっと、提携の話は流れるんでしょうね」

 勿論、その事は俺も分かっている。だけど……父は、俺が会社を辞めることも、美絵さんとの婚約を解消することも、最初からある程度予想しているような態度だった。

 その様子からは、今後の運営に不安など何もないという自信に満ちていた。俺ごときの結婚くらいでは、きっと揺るがないものがあるのだろう。

「社長に言っても別に構わない……。それに俺は、この件で父に勘当されている身なんです」

 それはきっと形だけでも責任をとらせる事と、『……おまえは、好きに生きなさい』と言った父の愛情なのだろう。

「だから、俺と美絵さんが結婚しても、きっと坂上社長も何の得にもならないでしょう」

「じゃあ、その彼のご両親は?」

「え?」

 直くんのご両親……。その言葉に、俺は初めて焦った。

「その彼のご両親に、息子さんは10歳も年上の男性と身体の関係がありますって言ったら……」

「……そんなこと! 直くんには関係のないことでしょう?」

「じゃあ、決まりですね」

 そう言って、嬉しそうに頬をほころばせている美絵さんは、どこか楽しそうだ。

「……2月14日……まで……」

「……え?」

「……ちょっとだけ、想い出をつくるくらい……それくらい、いいでしょう? 足がこんなんじゃ、何かと不安だし……」

 だから、実家に帰ったらいいのに……と言いたいところだったけれど、怪我をしてしまったことに、多少の責任も感じていた。

 それに、本当に直くんの家族にまで迷惑が及ぶようなことがあったら、取り返しがつかない。

「2月14日まで、本当に、ただ一緒にいるだけでいいんですね?」

「はい」

 押し切られてしまった感は否めないが、俺は2月14日までの間、美絵さんの希望を受け入れることにした。

 それで、美絵さんが納得してくれるのなら。

 俺が彼女にしてきた思わせぶりな態度と、怪我をさせてしまった責任も、こんな事で許してもらえるのなら。

 何よりも、直くんに迷惑がかからない為にも、この方法しか、今は無いと思った。

 ***

 その日の夜に神谷さんに連絡を取り、事情を話して、仕事の事と、あと住む所の相談をした。

 神谷さんは快く引き受けてくれて、取り敢えず帰ってからの身の振り方は決まっている。

 あとは……。

 あれから直くんは、どうしているんだろう。結局会えないまま、大阪に来てしまったことが気がかりだった。

 最後に逢ったあの夜に、直くんを傷つけたまま、時間だけが過ぎていく。

 このまま連絡せずに、逢えない時間が過ぎていけば、もう俺のことなど忘れてしまうかもしれない。

 何よりも、あの夜のことを思えば、直くんは俺のことを忘れたいと思っているに違いなかった。

 いきさつを教えてくれた光樹先輩も、もう俺に遠慮することなく、直くんに想いをぶつけていくだろう。

 遠い距離と、逢えない時間に焦りを感じるのに、勇気がなくて……。

 何度も直くんの携帯番号を表示させては、また閉じるを繰り返していた。

しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

処理中です...