出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 父は力のある眼差しで、俺のことを見据えたまま「そうか」と、ひとことだけ短い返事をする。

「……では、話すことは、それだけですので」

 そう言って、部屋を出ようと踵を返した俺に、父が思い出したように声をかける。

「……ああそれから、会社を継がない上に、今更縁談の話を蹴るのだから、覚悟は出来ているんだろうね」

 ――覚悟……? それは、今まで目には見えない父の力で守られていた場所から離れるということの意味だろうか。

「もうこの家に戻ってきては、いけないよ」

「……勘当ということですか?」

「お前は、好きに生きなさい」

 その言葉に、あの時神谷さんが俺に教えてくれた、父の言ったという言葉と、それから――静香が教えてくれた話を思い出した。

「……父さん……毎月、母さんの月命日に、墓前に花を供えているのは、父さんですか?」

 父は、表情を変えない。どこまでもポーカーフェイスを保とうとしている。

「……さあ……? どうだったかな……」

 口角を上げてそう言うと、また椅子を回転させて机に向かう。

 その背中に「ありがとうございました」と、声をかけても、パラパラと本のページをめくる音が聞こえてくるだけで、父はもうそれ以上何も言わなかった。


 ***


 翌日大阪に着くと、取り敢えず新居ということになっているマンションへ向かう。

 勝手に送られてしまった自分の荷物のことが気になっていた。

 服なんかは何とかなるが、仕事に必要なものなど、すぐにでも持ち帰りたい物もある。

 継母には、会社を辞めることも婚約を破棄することも今はまだ話さずに、マンションのキーだけ預かってきた。

『私も2~3日したら、そちらに行きますので、必要なものがあれば連絡してくださいね』

 継母は俺にマンションのキーを渡しながら、そう言った。

 本当のことを話していないことに、多少の後ろめたさは感じているけれど、仕方がない。

 今言ってしまうと、俺がやろうとしている事を阻止されるのは目に見えていたから。


 ***


 部屋の番号を確かめて、表札に『篠崎』と書いてあるのが目に入った。

「………」

 まだ正式に結納を交わしたわけでも無いのに。

 小さく溜息を吐きながらキーを回そうとすると、突然中からドアが開く。

「……え?」

 驚いて前を見ると、中からドアを開けた美絵さんが立っていた。

「……お義母様から連絡を頂いて、透さんがいらっしゃるってお聞きしたので、お待ちしてたんです。」


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