出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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「……こんばんは。そう、直くんの……知り合いなんだけど、留守みたいで」

 そういえば、同じマンションに幼馴染が住んでるって、言ってた……と、ふと思い出した。

「もしかして……君は、啓太くんかな」

「そうです」

 啓太くんは人のよさそうな笑顔で「あの、俺でよければご用件をお伺いしますが……?」と、言ってくれたけれど……。

 ひょろりと背の高い啓太くんは、細い腕で抱えているダンボール箱が重いのか、何度も抱えなおしている。

「ありがとう。でも……また来るからいいよ」

 寒くて、ダンボール箱の底を持っている指先が赤く悴んでいるように見える。早く俺がこの場から立ち去らないと、余計に寒い思いをさせてしまいそうだった。

「え? いいんですか?」

「うん、じゃあ、俺はこれで」

「あ、はい、さようなら」

 俺は啓太くんに会釈をして、さっき上って来たばかりの階段を下り、来た道を戻りながら、自然に深い溜息を白い息と共に吐いてしまう。

 バイトが終わって、この時間でも部屋に戻ってないのなら、どこかに遊びに行ったんだろう。

 今日中に逢いたかったけれど……。

 それでも、ふと、思い出して立ち止まり、コートのポケットから携帯を取り出した。

 さっき、かけようとして、不意に啓太くんに声をかけられたから、直くんの連絡先が画面に表示されたままだった。

 ――やっぱり、かけてみよう。

 そう思って通話キーに指を乗せた途端、携帯が振動して、ドキンと心臓が高鳴った。

「――!」

 そんな都合の良い事がある筈ないのに、俺は何故か期待してしまい、画面の表示を確認せずに通話キーを押した。 

 ――もしかしたら、電話の相手は、直くんかもしれないと。

 直くんからは、かかってくる筈がないのに。

「――もしもし?」

『……透さん?』

 電話の向こうから聞こえてきた声は、父親の再婚相手……俺の継母だった。

 あり得ないとは思いつつ、期待してしまっていたこととの大きすぎる違いに、落胆が隠せなくて自然に声も低くなってしまう。

「……はい」

『今朝、辞令が出たでしょう? 今、どこにいるのです?』

 やはり、辞令のことは継母も知っている……ということは、この移動は継母の思惑も絡んでいるように思える。

「同僚達が、送別会をしてくれていたので、まだ外です」

『あら、そう。じゃあまだマンションには帰ってないのね? それはちょうど良かったわ』

 何がちょうど良かったのか……継母の言葉に疑問と胸騒ぎを覚えた。悪い予感がして、仕方ない。

『もう来週の月曜日には向こうに着任なのでしょう? 時間があまりないので引越しはもう済ませておきましたから』

 ――え?

「引越しって?」

『透さんの部屋の荷物ですよ。着替えや書斎にあった物は送っておきましたけど、食器類や家具などはもう必要ないので、だいたいの物は処分しておきましたからね。残っている物も近日中に運び出す予定です』

「……」

 あまりの驚きに声も出ない。いくら何でも、勝手にそこまでやってしまうなんて思ってもみなかった。

「処分した物以外は、どこに送ったんですか?」

『どこにって……、決まってるじゃないの。透さんと美絵さんの新居ですよ』

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