出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
318 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―

(83)

しおりを挟む
 ******

 電車を降りて駅を出ると、冬の夜の寒々しい空が広がっている。だけど冷たい風が肌を刺すのも気にならなくて、早く逢いたい気持ちが、歩く足を自然に速くさせる、

 いつの間にか、直くんのワンルームマンションまでの道を自分でも気付かないうちに走り出していた。

 マンションに着いて、エントランスインターホンの前で肩で息をしながら、部屋の番号を思い出す。

 白い息を吐きながら、番号を一つずつ間違わないように入力していく。

 胸の鼓動は、走ってきたから……という理由だけではないのかもしれない。

 暫く待っても応答はなくて、もう一度押してみるけれどインターホンからは物音ひとつしない。

 ――まだ帰っていないのか……それとも……。

 こういう時、すぐに物事を悪い方に考えてしまう。

 そんな風に考えないように気持ちを落ち着かせようと、無言のインターホンから一歩後ろに下がった。

 コートのポケットから携帯を取り出して、直くんの番号を表示する。

 俺が電話をかけても、もしかしたら出ないかもしれないけど……。少し迷うが、逢う為には今はそれしか方法がなかった。

 だけど、通話ボタンを押そうとした時、中からマンションの住人が出てきた。自動ドアが開いたのに驚いて、携帯をまたポケットに入れる。

 軽く頭を下げて、足早に外に出て行くその人に俺も会釈して、そのままマンションの中に足を踏み入れた。

 中に入ったところで、直くんが家に居なければ、どうしようもないのだけれど。

 幅の狭い階段を取り敢えず5階まで上っていく。

 直くんの部屋の通路側にある小さな窓からは、灯りは見えない。

「やっぱり……留守、か……」

 時計は、もう10時を回っている。

 バイトの後、どこかへ遊びに行ったんだろうか。

 このままここで、もう少し待っていようか。

 そんなことを考えながら、もう一度携帯を取り出した。

 電話をするのが、一番確実だろう。

 だけど、通話キーを押すのを躊躇させるのは、最後に見た直くんの姿だった。

 ――『……俺、もう、連絡しないっ、もう透さんには逢わないっ』

 怒りに声を震わせて、俺のアドレスを消した直くんの顔が忘れられなくて。きっと嫌われているだろうな、と、また考えている自分に呆れて小さく笑ってしまう。

 電話をしても、もう俺とは逢いたくないと言うかもしれない。それ以前に、俺だと分かって、電話に出てくれない確率も高い。

 だけど……今は、この方法しか思い浮かばないから……。

 意を決して、指が通話キーを押そうとした瞬間……

「――あのぅ……?」

 後ろから、戸惑いがちな声をかけられて振り返ると、そこには直くんと同じくらいの歳だろう男の子が立っていた。

「えっと……直のお知り合いですか?」

 抱えたダンボール箱を重そうに持ち直して、彼は俺を見上げる。
しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...