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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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電車を降りて駅を出ると、冬の夜の寒々しい空が広がっている。だけど冷たい風が肌を刺すのも気にならなくて、早く逢いたい気持ちが、歩く足を自然に速くさせる、
いつの間にか、直くんのワンルームマンションまでの道を自分でも気付かないうちに走り出していた。
マンションに着いて、エントランスインターホンの前で肩で息をしながら、部屋の番号を思い出す。
白い息を吐きながら、番号を一つずつ間違わないように入力していく。
胸の鼓動は、走ってきたから……という理由だけではないのかもしれない。
暫く待っても応答はなくて、もう一度押してみるけれどインターホンからは物音ひとつしない。
――まだ帰っていないのか……それとも……。
こういう時、すぐに物事を悪い方に考えてしまう。
そんな風に考えないように気持ちを落ち着かせようと、無言のインターホンから一歩後ろに下がった。
コートのポケットから携帯を取り出して、直くんの番号を表示する。
俺が電話をかけても、もしかしたら出ないかもしれないけど……。少し迷うが、逢う為には今はそれしか方法がなかった。
だけど、通話ボタンを押そうとした時、中からマンションの住人が出てきた。自動ドアが開いたのに驚いて、携帯をまたポケットに入れる。
軽く頭を下げて、足早に外に出て行くその人に俺も会釈して、そのままマンションの中に足を踏み入れた。
中に入ったところで、直くんが家に居なければ、どうしようもないのだけれど。
幅の狭い階段を取り敢えず5階まで上っていく。
直くんの部屋の通路側にある小さな窓からは、灯りは見えない。
「やっぱり……留守、か……」
時計は、もう10時を回っている。
バイトの後、どこかへ遊びに行ったんだろうか。
このままここで、もう少し待っていようか。
そんなことを考えながら、もう一度携帯を取り出した。
電話をするのが、一番確実だろう。
だけど、通話キーを押すのを躊躇させるのは、最後に見た直くんの姿だった。
――『……俺、もう、連絡しないっ、もう透さんには逢わないっ』
怒りに声を震わせて、俺のアドレスを消した直くんの顔が忘れられなくて。きっと嫌われているだろうな、と、また考えている自分に呆れて小さく笑ってしまう。
電話をしても、もう俺とは逢いたくないと言うかもしれない。それ以前に、俺だと分かって、電話に出てくれない確率も高い。
だけど……今は、この方法しか思い浮かばないから……。
意を決して、指が通話キーを押そうとした瞬間……
「――あのぅ……?」
後ろから、戸惑いがちな声をかけられて振り返ると、そこには直くんと同じくらいの歳だろう男の子が立っていた。
「えっと……直のお知り合いですか?」
抱えたダンボール箱を重そうに持ち直して、彼は俺を見上げる。
電車を降りて駅を出ると、冬の夜の寒々しい空が広がっている。だけど冷たい風が肌を刺すのも気にならなくて、早く逢いたい気持ちが、歩く足を自然に速くさせる、
いつの間にか、直くんのワンルームマンションまでの道を自分でも気付かないうちに走り出していた。
マンションに着いて、エントランスインターホンの前で肩で息をしながら、部屋の番号を思い出す。
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胸の鼓動は、走ってきたから……という理由だけではないのかもしれない。
暫く待っても応答はなくて、もう一度押してみるけれどインターホンからは物音ひとつしない。
――まだ帰っていないのか……それとも……。
こういう時、すぐに物事を悪い方に考えてしまう。
そんな風に考えないように気持ちを落ち着かせようと、無言のインターホンから一歩後ろに下がった。
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中に入ったところで、直くんが家に居なければ、どうしようもないのだけれど。
幅の狭い階段を取り敢えず5階まで上っていく。
直くんの部屋の通路側にある小さな窓からは、灯りは見えない。
「やっぱり……留守、か……」
時計は、もう10時を回っている。
バイトの後、どこかへ遊びに行ったんだろうか。
このままここで、もう少し待っていようか。
そんなことを考えながら、もう一度携帯を取り出した。
電話をするのが、一番確実だろう。
だけど、通話キーを押すのを躊躇させるのは、最後に見た直くんの姿だった。
――『……俺、もう、連絡しないっ、もう透さんには逢わないっ』
怒りに声を震わせて、俺のアドレスを消した直くんの顔が忘れられなくて。きっと嫌われているだろうな、と、また考えている自分に呆れて小さく笑ってしまう。
電話をしても、もう俺とは逢いたくないと言うかもしれない。それ以前に、俺だと分かって、電話に出てくれない確率も高い。
だけど……今は、この方法しか思い浮かばないから……。
意を決して、指が通話キーを押そうとした瞬間……
「――あのぅ……?」
後ろから、戸惑いがちな声をかけられて振り返ると、そこには直くんと同じくらいの歳だろう男の子が立っていた。
「えっと……直のお知り合いですか?」
抱えたダンボール箱を重そうに持ち直して、彼は俺を見上げる。
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