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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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そのことに気付いても、直くんを傷つけたことは変わらなくて。
身体に残っていた痕跡を、俺は忘れることが出来るだろうか。そのことで、この先お互いが苦しまないだろうか。
「それとも……まだ直のことを赦せない?」
俺の心の中の隠したい部分に、光樹先輩は容易く触れてくる。
「ねえ、身体はどう? もう平気みたいだよね?」
「……え?」
そう言われてみれば、さっき一度欲を全て吐き出したことで、身体の熱は治まっている。
「あの夜、直は多分、透に飲ませたのより多めに薬を盛られたみたいだったよ」
「飲ませたのは、光樹先輩じゃないんですか」
「……違うって」
光樹先輩は、苦笑しながら言葉を続ける。
「透でも、こんな状態になっちゃっうんだから、直が流されてしまっても仕方ないと思えない?」
「それは……」
それは仕方ないのかもしれないけど……その後は……。
「あの夜のことは、それこそノーカウントでいいと思うよ」
光樹先輩は、上体を起こして、サイドテーブルの煙草の箱に手を伸ばす。
「直と俺が、身体を重ねたのは、あの夜だけだから」
そう言ってから、煙草を口に咥えて口角を上げた。
「……え?」
驚いている俺の顔を見て、光樹先輩は堪えきれないと言った風に、煙草の煙を吹き出して笑う。
「……先輩……」
「ごめんごめん、だからさ、その後は何度もプロポーズはしてるんだけど、なかなか恋人に昇格させてもらえなくてね」
その話が本当のことだとしたら……。
目を閉じると、瞼の裏に直くんの姿が浮かんで消える。
あの時、どうしてもっと直くんの話を聞かなかったのか……。後悔しても、何も始まらないのに。
遣る瀬無い想いがこみ上げてくるのを、光樹先輩に知られたくなくて、両手で自分の顔を覆った。
「……透?」
「……俺は……あの日、嫉妬心から激情にまかせて、直くんを酷く傷つけてしまったんです」
知られたくないのに、声が震える。
「……ああ……まあ、何となく分かるよ。でもさ……」
と、そこで、光樹先輩は煙草を深く吸い込み、ゆっくりと長く吐き出された紫煙が辺りに漂う。そうして一呼吸置いて、低い声で言葉を続けた。
光樹先輩を兄のように慕っていたあの頃と変わらない懐かしい声が優しくて、自分で自分を雁字搦めにしてしまっていた鎖を解いてくれるような気がした。
「あの夜、俺が直と偶然出逢って、そうなってしまった事も、あの日透がそのことを知って嫉妬した事も、もっとこうすれば良かったって考えて後悔することで、その先に見えてくるものがあれば良いんじゃないの?」
後悔することで見えてくるもの……。
「直と、この先もずっと一緒にいたいと思うくらい、好きなんでしょ?」
――どうして……。
「光樹先輩は、どうして俺にそんな事を言うんですか。先輩も直くんのこと、本気なんでしょう?」
「まあ、譲る気はないけど……、フェアじゃないことしたくないって言うか……」
光樹先輩の手が俺の頭に触れて、優しく髪を撫でながら言ってくれた言葉に胸が詰まった。
「……透が、いつか本気で恋をした時は、俺が全力で応援してあげると約束したしね」
身体に残っていた痕跡を、俺は忘れることが出来るだろうか。そのことで、この先お互いが苦しまないだろうか。
「それとも……まだ直のことを赦せない?」
俺の心の中の隠したい部分に、光樹先輩は容易く触れてくる。
「ねえ、身体はどう? もう平気みたいだよね?」
「……え?」
そう言われてみれば、さっき一度欲を全て吐き出したことで、身体の熱は治まっている。
「あの夜、直は多分、透に飲ませたのより多めに薬を盛られたみたいだったよ」
「飲ませたのは、光樹先輩じゃないんですか」
「……違うって」
光樹先輩は、苦笑しながら言葉を続ける。
「透でも、こんな状態になっちゃっうんだから、直が流されてしまっても仕方ないと思えない?」
「それは……」
それは仕方ないのかもしれないけど……その後は……。
「あの夜のことは、それこそノーカウントでいいと思うよ」
光樹先輩は、上体を起こして、サイドテーブルの煙草の箱に手を伸ばす。
「直と俺が、身体を重ねたのは、あの夜だけだから」
そう言ってから、煙草を口に咥えて口角を上げた。
「……え?」
驚いている俺の顔を見て、光樹先輩は堪えきれないと言った風に、煙草の煙を吹き出して笑う。
「……先輩……」
「ごめんごめん、だからさ、その後は何度もプロポーズはしてるんだけど、なかなか恋人に昇格させてもらえなくてね」
その話が本当のことだとしたら……。
目を閉じると、瞼の裏に直くんの姿が浮かんで消える。
あの時、どうしてもっと直くんの話を聞かなかったのか……。後悔しても、何も始まらないのに。
遣る瀬無い想いがこみ上げてくるのを、光樹先輩に知られたくなくて、両手で自分の顔を覆った。
「……透?」
「……俺は……あの日、嫉妬心から激情にまかせて、直くんを酷く傷つけてしまったんです」
知られたくないのに、声が震える。
「……ああ……まあ、何となく分かるよ。でもさ……」
と、そこで、光樹先輩は煙草を深く吸い込み、ゆっくりと長く吐き出された紫煙が辺りに漂う。そうして一呼吸置いて、低い声で言葉を続けた。
光樹先輩を兄のように慕っていたあの頃と変わらない懐かしい声が優しくて、自分で自分を雁字搦めにしてしまっていた鎖を解いてくれるような気がした。
「あの夜、俺が直と偶然出逢って、そうなってしまった事も、あの日透がそのことを知って嫉妬した事も、もっとこうすれば良かったって考えて後悔することで、その先に見えてくるものがあれば良いんじゃないの?」
後悔することで見えてくるもの……。
「直と、この先もずっと一緒にいたいと思うくらい、好きなんでしょ?」
――どうして……。
「光樹先輩は、どうして俺にそんな事を言うんですか。先輩も直くんのこと、本気なんでしょう?」
「まあ、譲る気はないけど……、フェアじゃないことしたくないって言うか……」
光樹先輩の手が俺の頭に触れて、優しく髪を撫でながら言ってくれた言葉に胸が詰まった。
「……透が、いつか本気で恋をした時は、俺が全力で応援してあげると約束したしね」
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