312 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(77)
しおりを挟む
そのことに気付いても、直くんを傷つけたことは変わらなくて。
身体に残っていた痕跡を、俺は忘れることが出来るだろうか。そのことで、この先お互いが苦しまないだろうか。
「それとも……まだ直のことを赦せない?」
俺の心の中の隠したい部分に、光樹先輩は容易く触れてくる。
「ねえ、身体はどう? もう平気みたいだよね?」
「……え?」
そう言われてみれば、さっき一度欲を全て吐き出したことで、身体の熱は治まっている。
「あの夜、直は多分、透に飲ませたのより多めに薬を盛られたみたいだったよ」
「飲ませたのは、光樹先輩じゃないんですか」
「……違うって」
光樹先輩は、苦笑しながら言葉を続ける。
「透でも、こんな状態になっちゃっうんだから、直が流されてしまっても仕方ないと思えない?」
「それは……」
それは仕方ないのかもしれないけど……その後は……。
「あの夜のことは、それこそノーカウントでいいと思うよ」
光樹先輩は、上体を起こして、サイドテーブルの煙草の箱に手を伸ばす。
「直と俺が、身体を重ねたのは、あの夜だけだから」
そう言ってから、煙草を口に咥えて口角を上げた。
「……え?」
驚いている俺の顔を見て、光樹先輩は堪えきれないと言った風に、煙草の煙を吹き出して笑う。
「……先輩……」
「ごめんごめん、だからさ、その後は何度もプロポーズはしてるんだけど、なかなか恋人に昇格させてもらえなくてね」
その話が本当のことだとしたら……。
目を閉じると、瞼の裏に直くんの姿が浮かんで消える。
あの時、どうしてもっと直くんの話を聞かなかったのか……。後悔しても、何も始まらないのに。
遣る瀬無い想いがこみ上げてくるのを、光樹先輩に知られたくなくて、両手で自分の顔を覆った。
「……透?」
「……俺は……あの日、嫉妬心から激情にまかせて、直くんを酷く傷つけてしまったんです」
知られたくないのに、声が震える。
「……ああ……まあ、何となく分かるよ。でもさ……」
と、そこで、光樹先輩は煙草を深く吸い込み、ゆっくりと長く吐き出された紫煙が辺りに漂う。そうして一呼吸置いて、低い声で言葉を続けた。
光樹先輩を兄のように慕っていたあの頃と変わらない懐かしい声が優しくて、自分で自分を雁字搦めにしてしまっていた鎖を解いてくれるような気がした。
「あの夜、俺が直と偶然出逢って、そうなってしまった事も、あの日透がそのことを知って嫉妬した事も、もっとこうすれば良かったって考えて後悔することで、その先に見えてくるものがあれば良いんじゃないの?」
後悔することで見えてくるもの……。
「直と、この先もずっと一緒にいたいと思うくらい、好きなんでしょ?」
――どうして……。
「光樹先輩は、どうして俺にそんな事を言うんですか。先輩も直くんのこと、本気なんでしょう?」
「まあ、譲る気はないけど……、フェアじゃないことしたくないって言うか……」
光樹先輩の手が俺の頭に触れて、優しく髪を撫でながら言ってくれた言葉に胸が詰まった。
「……透が、いつか本気で恋をした時は、俺が全力で応援してあげると約束したしね」
身体に残っていた痕跡を、俺は忘れることが出来るだろうか。そのことで、この先お互いが苦しまないだろうか。
「それとも……まだ直のことを赦せない?」
俺の心の中の隠したい部分に、光樹先輩は容易く触れてくる。
「ねえ、身体はどう? もう平気みたいだよね?」
「……え?」
そう言われてみれば、さっき一度欲を全て吐き出したことで、身体の熱は治まっている。
「あの夜、直は多分、透に飲ませたのより多めに薬を盛られたみたいだったよ」
「飲ませたのは、光樹先輩じゃないんですか」
「……違うって」
光樹先輩は、苦笑しながら言葉を続ける。
「透でも、こんな状態になっちゃっうんだから、直が流されてしまっても仕方ないと思えない?」
「それは……」
それは仕方ないのかもしれないけど……その後は……。
「あの夜のことは、それこそノーカウントでいいと思うよ」
光樹先輩は、上体を起こして、サイドテーブルの煙草の箱に手を伸ばす。
「直と俺が、身体を重ねたのは、あの夜だけだから」
そう言ってから、煙草を口に咥えて口角を上げた。
「……え?」
驚いている俺の顔を見て、光樹先輩は堪えきれないと言った風に、煙草の煙を吹き出して笑う。
「……先輩……」
「ごめんごめん、だからさ、その後は何度もプロポーズはしてるんだけど、なかなか恋人に昇格させてもらえなくてね」
その話が本当のことだとしたら……。
目を閉じると、瞼の裏に直くんの姿が浮かんで消える。
あの時、どうしてもっと直くんの話を聞かなかったのか……。後悔しても、何も始まらないのに。
遣る瀬無い想いがこみ上げてくるのを、光樹先輩に知られたくなくて、両手で自分の顔を覆った。
「……透?」
「……俺は……あの日、嫉妬心から激情にまかせて、直くんを酷く傷つけてしまったんです」
知られたくないのに、声が震える。
「……ああ……まあ、何となく分かるよ。でもさ……」
と、そこで、光樹先輩は煙草を深く吸い込み、ゆっくりと長く吐き出された紫煙が辺りに漂う。そうして一呼吸置いて、低い声で言葉を続けた。
光樹先輩を兄のように慕っていたあの頃と変わらない懐かしい声が優しくて、自分で自分を雁字搦めにしてしまっていた鎖を解いてくれるような気がした。
「あの夜、俺が直と偶然出逢って、そうなってしまった事も、あの日透がそのことを知って嫉妬した事も、もっとこうすれば良かったって考えて後悔することで、その先に見えてくるものがあれば良いんじゃないの?」
後悔することで見えてくるもの……。
「直と、この先もずっと一緒にいたいと思うくらい、好きなんでしょ?」
――どうして……。
「光樹先輩は、どうして俺にそんな事を言うんですか。先輩も直くんのこと、本気なんでしょう?」
「まあ、譲る気はないけど……、フェアじゃないことしたくないって言うか……」
光樹先輩の手が俺の頭に触れて、優しく髪を撫でながら言ってくれた言葉に胸が詰まった。
「……透が、いつか本気で恋をした時は、俺が全力で応援してあげると約束したしね」
0
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる