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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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じっと見つめられて居心地が悪い。
「……なんですか……?」
「あーぁ、やっぱキスはやめた」
そう言って光樹先輩は、身体を起こした。
どこか子供みたいな物言いに、緊張の糸が解れて思わずクスっと声を漏らしてしまっていた。
「男同士は、ノーカウントじゃなかったんですか」
「そうだけどね。キスは熱を抜く行為にならないし……」
光樹先輩特有のルールに、俺の思考は付いていけてないけれど、そこで止めてくれたことに、内心はホッと胸を撫で下ろしていた。
「キスは、やっぱり好きなやつとじゃないとね。透は直が好きだし、俺も直が好きだし」
光樹先輩の言葉はいつだって軽すぎて、本心は見えない。本当に本気で直くんと付き合っているとは、どうしても思えなかった。
「好きだなんて……本気で思ってないんでしょう?」
一時の気まぐれで、直くんを傷つけてほしくないと思った。
「酷いな、そんな風に思ってたの?」
光樹先輩は、ベッドに仰向けになったままの俺の隣に横たわると、肘枕をして溜息混じりにそう言った。
「違うんですか?」
「俺は、いつだって本気だよ」
――それが信じられないんだけど……。
言葉には出さなかったけど、俺の表情から言いたいことを感じ取ったのか、光樹先輩は言葉を続ける。
「本当だよ。俺は、好きでもない相手には手を出したりしないよ」
不意に光樹先輩の指が俺の唇に触れて、軽くなぞるように動く。
「……あの頃、透のことも、本気だった」
その言葉に昔の記憶が思い起こされて、胸のざわつきを感じた。
「……信じませんよ。そんな昔のこと」
「まあ、今更だよね。それは昔の話だし」
光樹先輩は少し困ったような顔をして、言葉を続ける。
「今は、直のことが誰よりも好きだよ」
それは、いつもの軽いノリとは違う、言葉に重みを感じて、
――ああ……そうか……と、思う。やはり……光樹先輩は本気なんだと。
まるで探していたピースが見つかったように、胸の中にストンと降りてきた。
「そうですか……」
本気でこの先も、直くんと生きていくことを考えていると、漸く信じられる気がしてきた。
――それではもう……、本当に俺の出る幕は無いのだと、自分に言い聞かせるしかなくて……。
「光樹先輩が直くんのことを本気で思っていて、直くんもそれを望むのなら、俺は……」
「身を引くとか、言わないでよ?」
言いかけた言葉は、光樹先輩の意外なひと言に遮られる。
「……え?」
なんでそうなるのか、光樹先輩の考えることは予測がつかなくて、俺は次の言葉を待って、その唇が動くのをじっと見つめた。
「透が、初めて本気で好きになった相手じゃないの? 直は」
その言葉は、絡んで縺れてしまったままの糸を解すように心に響く。
生まれて初めて、嫉妬を覚え、生まれて初めて、哀しみを覚え、生まれて初めて、手放したくないと心から思った。
光樹先輩に言われて、初めて気付くなんて……。
きっと、この気持ちは、ずっと変わらない。
――永遠に続く愛なんて、信じていなかったのに。
「……なんですか……?」
「あーぁ、やっぱキスはやめた」
そう言って光樹先輩は、身体を起こした。
どこか子供みたいな物言いに、緊張の糸が解れて思わずクスっと声を漏らしてしまっていた。
「男同士は、ノーカウントじゃなかったんですか」
「そうだけどね。キスは熱を抜く行為にならないし……」
光樹先輩特有のルールに、俺の思考は付いていけてないけれど、そこで止めてくれたことに、内心はホッと胸を撫で下ろしていた。
「キスは、やっぱり好きなやつとじゃないとね。透は直が好きだし、俺も直が好きだし」
光樹先輩の言葉はいつだって軽すぎて、本心は見えない。本当に本気で直くんと付き合っているとは、どうしても思えなかった。
「好きだなんて……本気で思ってないんでしょう?」
一時の気まぐれで、直くんを傷つけてほしくないと思った。
「酷いな、そんな風に思ってたの?」
光樹先輩は、ベッドに仰向けになったままの俺の隣に横たわると、肘枕をして溜息混じりにそう言った。
「違うんですか?」
「俺は、いつだって本気だよ」
――それが信じられないんだけど……。
言葉には出さなかったけど、俺の表情から言いたいことを感じ取ったのか、光樹先輩は言葉を続ける。
「本当だよ。俺は、好きでもない相手には手を出したりしないよ」
不意に光樹先輩の指が俺の唇に触れて、軽くなぞるように動く。
「……あの頃、透のことも、本気だった」
その言葉に昔の記憶が思い起こされて、胸のざわつきを感じた。
「……信じませんよ。そんな昔のこと」
「まあ、今更だよね。それは昔の話だし」
光樹先輩は少し困ったような顔をして、言葉を続ける。
「今は、直のことが誰よりも好きだよ」
それは、いつもの軽いノリとは違う、言葉に重みを感じて、
――ああ……そうか……と、思う。やはり……光樹先輩は本気なんだと。
まるで探していたピースが見つかったように、胸の中にストンと降りてきた。
「そうですか……」
本気でこの先も、直くんと生きていくことを考えていると、漸く信じられる気がしてきた。
――それではもう……、本当に俺の出る幕は無いのだと、自分に言い聞かせるしかなくて……。
「光樹先輩が直くんのことを本気で思っていて、直くんもそれを望むのなら、俺は……」
「身を引くとか、言わないでよ?」
言いかけた言葉は、光樹先輩の意外なひと言に遮られる。
「……え?」
なんでそうなるのか、光樹先輩の考えることは予測がつかなくて、俺は次の言葉を待って、その唇が動くのをじっと見つめた。
「透が、初めて本気で好きになった相手じゃないの? 直は」
その言葉は、絡んで縺れてしまったままの糸を解すように心に響く。
生まれて初めて、嫉妬を覚え、生まれて初めて、哀しみを覚え、生まれて初めて、手放したくないと心から思った。
光樹先輩に言われて、初めて気付くなんて……。
きっと、この気持ちは、ずっと変わらない。
――永遠に続く愛なんて、信じていなかったのに。
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