出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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  アーリーアメリカン調の店内へ足を踏み入れると、暖かみのある柔らかいライトの落ち着いた雰囲気に、心がほぐされたような気がしてホッとする。
 
  自分が知らずに緊張していたことに気付いて、心の中で苦笑した。

「いらっしゃいませ」

 中へ入るとすぐに、30代半ば位の男が声をかけてきた。

 洗いのかかったボタンダウンのシャンブレーシャツをラフに着こなしている男は、この店にやけに溶け込んでいる。

「待ち合わせですか?」

「いえ……。マスターはいますか? 知り合いなんですが……」

「はい、奥におります。呼んできますのでカウンター席でお待ち頂けますか?」

 案内されたカウンター席に腰掛けて、ぼんやりと店内を眺めていた。

 ――なんでバーのマスターなんて、やってるんだろう。大学は医学部に入ったと噂に聞いた気がするが……。

「やっと来たな、透」

 考え込んでいると、不意に声をかけられて前に視線を戻した。

 いつの間にかカウンターの中に光樹先輩が立っている。

「どうも」

 軽く頭を下げて、何を呑もうか考えていると、光樹先輩がカウンター越しに身を乗り出すようにして、俺の顔を覗き込む。

「お前、痩せた? いや、やつれてるな」

 そう言うなり、一度奥のスタッフルームに入って行き、ジャケットに腕を通しながら戻ってくる。

「透、行くぞ」

 いきなり言われて面食らってしまう。

「行くってどこへ?」

「俺のマンション」

「え? ちょっと、待ってください。俺、光樹先輩のマンションになんか行きませんから!」

 スタスタと出口へ歩いていく背中に慌てて言葉を投げつけた俺を、光樹先輩はのドアの前で立ち止まって振り返る。

「直の話を聞きたいんだろ? ここじゃ出来ないんだよ。いいからついてきなって」

 そう言ったかと思うと、光樹先輩に手首を掴まれて、店の外へ連れ出されてしまう。

 そして、半ば強引に車の助手席に押し込められた。

 ――この前、直くんがここに座っていた。

 キスをしていた二人が乗っていた車に、 今自分が乗っている。そう思うと、思い出したくない光景がまた頭を過ぎって、眉をひそめた。

「難しい顔、すんなって」

 そう言いながら、光樹先輩はエンジンをかける。

「晩飯は食った?」

「はい……」

「そっか、じゃマンションに直行するよ」

 そう言って、光樹先輩はアクセルをゆっくりと踏み込んた。車は駐車場から出ると、路地を抜けてメインストリートに入っていく。

 俺は、流れていく街灯りに視線を向けて、光樹先輩の顔を見ないようにしていた。

 光樹先輩のマンションに行ったあの夏を思い出して、まさか同じ間違いは起こる筈はないと、自分に言い聞かせながら。

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