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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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どんなに哀しくても、どんなに辛くても、いつも通りの日常は過ぎていく。
朝起きて出勤して、夜遅くまで仕事をして家に帰る。その繰り返し。
今までと違っていたのは、ぐっすり眠れないことだけ。
夜の静寂に埋もれると、途端に二人の寄り添う姿が浮かんできて、直くんが光樹先輩とキスをしている光景が蘇ってくる。
そして……直くんの身体に散った紅い痕や、密やかに漏れる吐息のような声が、段々高く嬌声に変わっていく。 その身体を抱いているのは、やっぱり俺じゃなくて。
夜中に目覚めて、夢を見ていたことに気付く。
ふらふらと起き上がり、キッチンに行ってショットグラスにウイスキーを注ぎ、一息で飲み干す。
そうやって、何杯呑んでも酔えない気がした。酒に酔って、何もかも忘れることが出来ればいいのに。
あれから、そんな夜がずっと続いて、もうすぐ2月になろうとしていた。
******
出張があった日の帰り、電車の切符をどこに入れたか忘れてしまって、コートのポケットの奥深くを手で探っていて見つけた一枚の名刺。
そこに入れていた事すら忘れていた。
光樹先輩の経営する店の名前と住所と地図が刷られている。
『絶対、来いよ』
そう言い残して去って行った光樹先輩の後ろ姿を思い出していた。
――行って、何があるって言うんだ……。
今更、光樹先輩と酒を呑む関係になんて、なれる筈もないのに。何を考えて、あの人は俺にこんなものを渡したんだろう。
「……」
そう思っているのに、俺は電車を乗り換えた。今乗っていた電車とは反対側のホームの電車に。
好奇心? ――いや、違う。確かめたいんだ、俺は。
――『俺は本気だよ。今日、直にプロポーズしたし』
『愛してる』という言葉をいつも軽々しく口にする男が、本当に本気で直くんと付き合っているのか。
直くんは、光樹先輩とこの先もずっと一緒に生きていくことを選んだのかどうか。
未練がましいってことは分かってる。だけど、それではっきりさせたい。
決定打を打ち込まれたら、この気持ちに決着を付けれるかもしれないなんて、本気で思っていた。
**
人通りの多いメインストリートからは外れた路地を入ったところに、その店はあった。
『BAR awesome!』と書かれたプレートを確認して、ダメージ感のある木の重いドアを開けた。
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『絶対、来いよ』
そう言い残して去って行った光樹先輩の後ろ姿を思い出していた。
――行って、何があるって言うんだ……。
今更、光樹先輩と酒を呑む関係になんて、なれる筈もないのに。何を考えて、あの人は俺にこんなものを渡したんだろう。
「……」
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直くんは、光樹先輩とこの先もずっと一緒に生きていくことを選んだのかどうか。
未練がましいってことは分かってる。だけど、それではっきりさせたい。
決定打を打ち込まれたら、この気持ちに決着を付けれるかもしれないなんて、本気で思っていた。
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