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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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自分で自分の出した声の大きさに、驚いていた。
車内に重い沈黙が流れて、光樹先輩も目を丸くしている。
「……はっ、驚いたな。透が本気で怒るとこは、初めて見たかも」
と、先に口を開いたのは、光樹先輩の方だった。
煙草を深呼吸をするように吸い込んで一気に吐き出すと、アッシュトレーに揉み消して、俺の方に向き直る。
「……ってことは……」
何かを考えるように宙を見つめ、また俺に視線を合わせて、口角を上げて微笑んだ。
「透は……直のことを本気なんだ?」
「――俺は……」
じっと見つめる切れ長な瞳に、何もかも見透かされているようで、うろたえてしまう。
光樹先輩と直くんの関係を赦せない気持ちもあるけれど、それでも直くんを手放したくないと心の底では思っている。
さっき、もう逢わないと言われたばかりだけれど、未練がましくもう一度逢いたいと思っている。
それは、直くんのことを好きだから……。自分ではどうしようもなく、コントロールできない気持ちだ。でもそれを、目の前の光樹先輩に素直に言えずにいた。俺の中にある、薄っぺらいプライドが邪魔をする。
「ふーん、ま、透が直のことをどう思っていようが、俺は直のことを本気で愛してるけどね」
「……え?」
光樹先輩のそんな言葉は、いつもふざけていて、どこからどこまでが本気なのか分からない。
だから、今言った言葉も、真剣に受け止めるなんて馬鹿げている。
俺は、絞り出すように、やっとの思いで声を出した。
「……嘘……でしょう?」
だけど俺を見つめる真剣な眼差しは、嘘ではないと語っていた。
「やだなー、嘘じゃないよ。ふざけてる訳でもないからね」
自分の心臓の音が、やけに煩く耳に届いている。
「なあ、透は直のことを本気だとしたら……将来のことも考えてんの?」
「……将来?」
「そう、今だけを楽しんでいるんだとしたら、それはただの遊びで、本気じゃないでしょ?」
さっきから煩く鳴っていた心臓の音が、急に止まった気がした。
……息が詰まる。
「俺は本気だよ。今日、直にプロポーズしたし」
――プロポーズ?!
光樹先輩の顔を、まともに見ることが出来ずに、俺は目を逸らした。
「……直くんは……、なんて?」
「まあ、まだ返事待ちだけどね……。でも俺、自信あるよ」
――将来なんて……。男同士で、未来なんてある筈がないじゃないか。
「……直くんは、まだ18歳ですよ?」
「そんなの、知ってるよ」
「知ってて、よく言えますね……。直くんの幸せを思えば、一生傍に居るなんて、考えられないんじゃないですか?」
「関係ないね。幸せかどうかは、直が決めることじゃん?」
それ以上言い返せなくて、俺は唇を噛み締めた。
幸せかどうかは、直くん自身が決めること……。
――『……俺、もう、連絡しないっ、もう透さんには会わないっ』
あれは、決別の言葉じゃないか。
あの部屋を出る時に、もう逢えなくなると、俺も分かっていたのに。
「俺は、欲しいものは必ず手にいれるよ。たとえ奪ってでもね」
光樹先輩の声が、どこか遠くで聞こえているように思える。
直くんが光樹先輩に、「Yes」と言えば、それでもう俺の出る幕はない。
いや、もう既に、俺と直くんの関係は、さっき終わってしまったのだけれど……。
車内に重い沈黙が流れて、光樹先輩も目を丸くしている。
「……はっ、驚いたな。透が本気で怒るとこは、初めて見たかも」
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「……ってことは……」
何かを考えるように宙を見つめ、また俺に視線を合わせて、口角を上げて微笑んだ。
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じっと見つめる切れ長な瞳に、何もかも見透かされているようで、うろたえてしまう。
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「……え?」
光樹先輩のそんな言葉は、いつもふざけていて、どこからどこまでが本気なのか分からない。
だから、今言った言葉も、真剣に受け止めるなんて馬鹿げている。
俺は、絞り出すように、やっとの思いで声を出した。
「……嘘……でしょう?」
だけど俺を見つめる真剣な眼差しは、嘘ではないと語っていた。
「やだなー、嘘じゃないよ。ふざけてる訳でもないからね」
自分の心臓の音が、やけに煩く耳に届いている。
「なあ、透は直のことを本気だとしたら……将来のことも考えてんの?」
「……将来?」
「そう、今だけを楽しんでいるんだとしたら、それはただの遊びで、本気じゃないでしょ?」
さっきから煩く鳴っていた心臓の音が、急に止まった気がした。
……息が詰まる。
「俺は本気だよ。今日、直にプロポーズしたし」
――プロポーズ?!
光樹先輩の顔を、まともに見ることが出来ずに、俺は目を逸らした。
「……直くんは……、なんて?」
「まあ、まだ返事待ちだけどね……。でも俺、自信あるよ」
――将来なんて……。男同士で、未来なんてある筈がないじゃないか。
「……直くんは、まだ18歳ですよ?」
「そんなの、知ってるよ」
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「関係ないね。幸せかどうかは、直が決めることじゃん?」
それ以上言い返せなくて、俺は唇を噛み締めた。
幸せかどうかは、直くん自身が決めること……。
――『……俺、もう、連絡しないっ、もう透さんには会わないっ』
あれは、決別の言葉じゃないか。
あの部屋を出る時に、もう逢えなくなると、俺も分かっていたのに。
「俺は、欲しいものは必ず手にいれるよ。たとえ奪ってでもね」
光樹先輩の声が、どこか遠くで聞こえているように思える。
直くんが光樹先輩に、「Yes」と言えば、それでもう俺の出る幕はない。
いや、もう既に、俺と直くんの関係は、さっき終わってしまったのだけれど……。
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