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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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「俺のこと、直くんから訊いていたんですか?」
いくら俺が、直くんのマンションの前にいたからといって、何も知らない光樹先輩が、俺と直くんとの関係に気付くはずはなかった。
光樹先輩は「――まあねー」と、とぼけるように言った後、「透、ちゃんと『俺』って言ってるじゃん」と、嬉しそうに笑った。
「別に、あなたと約束したからってわけじゃありません……」
そんな昔の話をこの人が憶えているなんて意外だなと思いながら、光樹先輩の唇に咥えた煙草の先端の火が、吸うたびに暗い車内で一瞬明るく灯るのを、視界の片隅でぼんやりと眺めていた。
――だけど、今訊きたいのはそんな昔話ではなくて……。
「……直くん……、俺のことを何て言ってたんです?」
「さぁー? 何て言ってたかなー」
光樹先輩はそう言って、口元に笑みを浮かべながらアッシュトレーを引き出し、煙草を指先で弾いて灰を落とす。
「ああ……そう言えば……『透さんは彼氏じゃない』って言ってたっけな」
――彼氏じゃない。
その言葉は、俺の胸の奥に突き刺さる。確かに……言う通りなのに。
「でもまさか、直の言う『透さん』ってのが、透だとは思わなかったから、びっくりした」
光樹先輩は、短くなった煙草をアッシュトレーに押し付けて火を消しながら、くっくっと笑う。
「まさか、透が今も、男を相手にしてるなんてね」
言われて顔が熱くなる。別に、あれから男しか駄目になったというわけでは、なかった。
光樹先輩が、俺の前からいなくなってしまった後、何人か恋人と呼べる人はいたけれど、それは全員女性だったから。
「もしかして、俺とのセックスがよかったから、忘れられなかった?」
「……っ、そんなんじゃ……っ」
慌てて否定する俺の顎を、光樹先輩の指が捕らえた。
「何なら、もう一回試してみる?」
そう言いながら、また距離を縮めてくる。俺は顎を掴んでいた光樹先輩の手を、あわてて払い退けて睨みつけた。
「冗談は、やめてください」
感情を隠しきれない俺に対して、光樹先輩は余裕の表情で笑っている。
「ふふっ、まあ、今は透が直を抱く側みたいだし?」
訊きたいことは、山ほどあった。
直くんと、いつどこで知り合ったのか。
直くんのことを、どう思っているのか。
――何回、直くんの身体を抱いたのか……。
それは、知りたいけれど、知りたくないことばかり。
俺がそうやって考えを巡らせていることなんて知りもせず、光樹先輩が言葉を続ける。
「分かるよ。直は、そこらの女の子より可愛いもんね」
そう言いながら、光樹先輩は2本目の煙草に火を点けた。
「肌なんか、すべすべでさ、吸い付いてくるような感触が堪んないよね」
「……っ」
身体の奥底から、怒りがふつふつと沸いてくるのを感じる。それ以上訊きたくないのに、光樹先輩の言葉は、容赦なく次々と俺の心を抉った。
「ちょっと触れただけで、熱く色づいてく肌に、そそられちゃったよ」
「……やめてください」
言葉を遮ろうと、発した声は小さすぎて、光樹先輩は訊きたくもない話を喋り続けた。
「中に挿れたらさー、めちゃ狭くて、それでいてトロトロでさ、しかも締め付け具合が気持ちいいんだよねー」
「……やめ…… っ」
「俺、もう止まんなくなっちゃって、何度も何度も直の中を……」
「――やめろっ!」
気が付いたら、今まで出したことのないような大きな声で怒鳴っていた。
いくら俺が、直くんのマンションの前にいたからといって、何も知らない光樹先輩が、俺と直くんとの関係に気付くはずはなかった。
光樹先輩は「――まあねー」と、とぼけるように言った後、「透、ちゃんと『俺』って言ってるじゃん」と、嬉しそうに笑った。
「別に、あなたと約束したからってわけじゃありません……」
そんな昔の話をこの人が憶えているなんて意外だなと思いながら、光樹先輩の唇に咥えた煙草の先端の火が、吸うたびに暗い車内で一瞬明るく灯るのを、視界の片隅でぼんやりと眺めていた。
――だけど、今訊きたいのはそんな昔話ではなくて……。
「……直くん……、俺のことを何て言ってたんです?」
「さぁー? 何て言ってたかなー」
光樹先輩はそう言って、口元に笑みを浮かべながらアッシュトレーを引き出し、煙草を指先で弾いて灰を落とす。
「ああ……そう言えば……『透さんは彼氏じゃない』って言ってたっけな」
――彼氏じゃない。
その言葉は、俺の胸の奥に突き刺さる。確かに……言う通りなのに。
「でもまさか、直の言う『透さん』ってのが、透だとは思わなかったから、びっくりした」
光樹先輩は、短くなった煙草をアッシュトレーに押し付けて火を消しながら、くっくっと笑う。
「まさか、透が今も、男を相手にしてるなんてね」
言われて顔が熱くなる。別に、あれから男しか駄目になったというわけでは、なかった。
光樹先輩が、俺の前からいなくなってしまった後、何人か恋人と呼べる人はいたけれど、それは全員女性だったから。
「もしかして、俺とのセックスがよかったから、忘れられなかった?」
「……っ、そんなんじゃ……っ」
慌てて否定する俺の顎を、光樹先輩の指が捕らえた。
「何なら、もう一回試してみる?」
そう言いながら、また距離を縮めてくる。俺は顎を掴んでいた光樹先輩の手を、あわてて払い退けて睨みつけた。
「冗談は、やめてください」
感情を隠しきれない俺に対して、光樹先輩は余裕の表情で笑っている。
「ふふっ、まあ、今は透が直を抱く側みたいだし?」
訊きたいことは、山ほどあった。
直くんと、いつどこで知り合ったのか。
直くんのことを、どう思っているのか。
――何回、直くんの身体を抱いたのか……。
それは、知りたいけれど、知りたくないことばかり。
俺がそうやって考えを巡らせていることなんて知りもせず、光樹先輩が言葉を続ける。
「分かるよ。直は、そこらの女の子より可愛いもんね」
そう言いながら、光樹先輩は2本目の煙草に火を点けた。
「肌なんか、すべすべでさ、吸い付いてくるような感触が堪んないよね」
「……っ」
身体の奥底から、怒りがふつふつと沸いてくるのを感じる。それ以上訊きたくないのに、光樹先輩の言葉は、容赦なく次々と俺の心を抉った。
「ちょっと触れただけで、熱く色づいてく肌に、そそられちゃったよ」
「……やめてください」
言葉を遮ろうと、発した声は小さすぎて、光樹先輩は訊きたくもない話を喋り続けた。
「中に挿れたらさー、めちゃ狭くて、それでいてトロトロでさ、しかも締め付け具合が気持ちいいんだよねー」
「……やめ…… っ」
「俺、もう止まんなくなっちゃって、何度も何度も直の中を……」
「――やめろっ!」
気が付いたら、今まで出したことのないような大きな声で怒鳴っていた。
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