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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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「昨夜、飲みすぎたみたいだったから、二日酔いとか大丈夫かなと思って、様子見に寄っただけだよ」
問い質したくなる気持ちを何とか抑えている今の俺は、ちゃんと笑えているだろうか。
「え、あ、二日酔いは全然、大丈夫。あ、あの、どれくらい待ってたの? 携帯に連絡くれたらよかったのに」
「そんなに待ってないよ。それに俺も突然思い付いて、来ちゃっただけだったからね」
そう言い訳して、スーパーの袋を直くんの目の前に持ち上げた。
「食欲、ないかなーと思って。苺なら口当たりもいいし、買ってきた。食べれる?」
袋の中を覗いた直くんは、途端に嬉しそうな笑顔を俺に向けてくれる。
「すごい美味しそう。すみません、わざわざ……」
なのに、スーパーの袋を手渡すと、僅かに指先が触れ合っただけで、直くんの身体がびくっと小さく震えた。
そんな小さなことにさえ、胸の中を抉られるような痛みを覚える。
あの人に触れられた後に、俺に触れられるのは嫌なのかと……。
考えたくもないことばかりが、頭を過ぎっていく。
「直、くん……」
だから、ちゃんと確かめさせてほしい。
違うなら違うと、言ってほしい。
俺を拒否したいなら、もうここで、そうしてほしい。
俺じゃなくてもいいと言うのなら、断ってほしい。
「……部屋に、入れてもらえないのかな」
傷つけ合ってしまう前に終わらせられるのなら、それが一番いいのに。
直くんの大きな瞳が、驚きと戸惑いの色を浮かべながら俺を見上げた。
「いや、そんな事ない! 上がっていってください。あ、でも……」
「でも?」
「あの……本当に、信じられないくらい狭いし、物凄く散らかしてるけど、驚かない?」
恥ずかしそうに、そう言う直くんの表情に嘘はなくて、俺は少しだけ安心して頬を緩めた。
――だけど……。
それとは別に、直くんの戸惑う気持ちも確かに見え隠れしていることに、俺は気付いていた。
*
横幅の狭い階段を、直くんの後から5階まで上っていく間に、何度もその背中に問いかけたくなった。
肩を掴んで、振り向かせて、視線を合わせて、本当のことを訊き出したい。
あの人と、どこで知り合った?
昨夜は、どこで泊まった?
ずっとあの人と一緒だった?
何故キスをしていた……?
それ以上の関係も、あるのか……?
次々と浮かんでしまう、責めるような言葉を振り払おうとして、俺は頭を振る。
ここがマンションの階段ということも忘れて、後ろから抱きしめてしまいたい。
直くんの体温を感じたら、俺の焦燥感も少しは消えてくれるかもしれない……と、そんな気がして。
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袋の中を覗いた直くんは、途端に嬉しそうな笑顔を俺に向けてくれる。
「すごい美味しそう。すみません、わざわざ……」
なのに、スーパーの袋を手渡すと、僅かに指先が触れ合っただけで、直くんの身体がびくっと小さく震えた。
そんな小さなことにさえ、胸の中を抉られるような痛みを覚える。
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だから、ちゃんと確かめさせてほしい。
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「……部屋に、入れてもらえないのかな」
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直くんの大きな瞳が、驚きと戸惑いの色を浮かべながら俺を見上げた。
「いや、そんな事ない! 上がっていってください。あ、でも……」
「でも?」
「あの……本当に、信じられないくらい狭いし、物凄く散らかしてるけど、驚かない?」
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――だけど……。
それとは別に、直くんの戸惑う気持ちも確かに見え隠れしていることに、俺は気付いていた。
*
横幅の狭い階段を、直くんの後から5階まで上っていく間に、何度もその背中に問いかけたくなった。
肩を掴んで、振り向かせて、視線を合わせて、本当のことを訊き出したい。
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それ以上の関係も、あるのか……?
次々と浮かんでしまう、責めるような言葉を振り払おうとして、俺は頭を振る。
ここがマンションの階段ということも忘れて、後ろから抱きしめてしまいたい。
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