292 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(57)
しおりを挟む
急に避けられている気がして……寂しかったんだ。だから理由を訊きたかった。
『――光樹先輩!』
卒業式の後、校庭で卒業生達がそれぞれに写真を撮ったりして賑わっている中、一人校門から出て行くその背中を見つけて追いかけた。
振り向いた光樹先輩の瞳は優しくて、いつもと変わらないのに……。
『透……、元気でな、バイバイ』
俺の頭の上に手を置いて、そう言った。
――バイバイ……。
それは「また明日」みたいに、次の約束をする言葉には聞こえなかった。
『……あのっ、またマンションに遊びに行っても、いいですか?』
何故そんなことを訊いたのか、自分でも自分の気持ちがよく分からなかった。
『もうすぐ引っ越すから、あのマンションには、俺、いないよ』
『じゃ、じゃあ、……』
引越し先はどこ? と、訊こうとする俺の言葉を遮るように、光樹先輩は言った。
『課外授業は、終わりだよ』
俺を見つめる眼差しは優しいのに、その言葉は俺の胸に冷たく響く。
――分かってた。愛してるなんて嘘だって、分かってた。あれは、ただの課外授業だって、最初から言ってたんだから。
なのに胸の奥だけは、何故か鋭い痛みを感じた。
『透は、俺のこと、好きなの?』
『――好き……、』
好きだよ……。光樹先輩のこと、本当の兄のように思っていた。
『……透』
光樹先輩は、少し屈んで俺に目線を合わせた。
『お前は、本気で人を好きにならない……でしょ』
言ってる意味が分からずに、ただ光樹先輩の切れ長の目に映る、自分を見ていた。
『そうだな……透が、いつか本気で誰かに恋をした時は……』
光樹先輩が目を細めて、いつものように俺の髪をぐしゃぐしゃと掻きまわす。
『……俺が全力で、応援してあげるからね』
そうして、本当なのか冗談なのか分からない約束を残し、光樹先輩は歩いていってしまう。
俺に背中を向けたまま手を振って、
――――じゃあね。と、最後の言葉が聞こえてきた。
小さくなっていく光樹先輩の後ろ姿を、俺はその場所で立ち尽くしたまま、呆然と見送ることしか出来ずにいた。
***
光樹先輩を見たのは、それが最後で……。
――『お前は、本気で人を好きにならない……でしょ』
光樹先輩がなんでそんな事を言ったのかは、未だに全然分からなくて。
ただ……分かっているのは……、
やっぱりあの時に、光樹先輩が何度も囁いた言葉は全部嘘で。ただ『課外授業』という、遊びの中での台詞にすぎなかった。
分かっていたことだから、傷ついたとか、悲しかったとか、そんな感情はなくて、心は酷く冷めていたように思う。
ただ少し……、兄のように慕っていたから、そう……ただ少しだけ、逢えなくなるのが寂しかっただけ。
――『俺が全力で、応援してあげるからね』
「……反対に、邪魔してるし……」
直くんのマンションに行く途中にあるスーパーで、食欲がなくても食べれそうな物を探しながら、ポツリとそう呟いていた。
光樹先輩は、いつも、どこからどこまでが、本気なのか分からない。
俺は、それに振り回されていただけ。
きっと、直くんも……。
なんとなく店内を歩いていて、青果コーナーで色が綺麗で艶々と光っている大ぶりの苺が目に留まった。
イブの日、苺ののったケーキを頬張る直くんの顔を思い出して、自然に頬が緩む。
苺なら、食欲がなくても食べれるだろう。
お腹が空いてそうなら、また買いに行けばいいし、外で食べれそうなら外食でも……。
そんなことを考えながら、取り敢えず、苺だけ買って、直くんのマンションへと車を走らせた。
『――光樹先輩!』
卒業式の後、校庭で卒業生達がそれぞれに写真を撮ったりして賑わっている中、一人校門から出て行くその背中を見つけて追いかけた。
振り向いた光樹先輩の瞳は優しくて、いつもと変わらないのに……。
『透……、元気でな、バイバイ』
俺の頭の上に手を置いて、そう言った。
――バイバイ……。
それは「また明日」みたいに、次の約束をする言葉には聞こえなかった。
『……あのっ、またマンションに遊びに行っても、いいですか?』
何故そんなことを訊いたのか、自分でも自分の気持ちがよく分からなかった。
『もうすぐ引っ越すから、あのマンションには、俺、いないよ』
『じゃ、じゃあ、……』
引越し先はどこ? と、訊こうとする俺の言葉を遮るように、光樹先輩は言った。
『課外授業は、終わりだよ』
俺を見つめる眼差しは優しいのに、その言葉は俺の胸に冷たく響く。
――分かってた。愛してるなんて嘘だって、分かってた。あれは、ただの課外授業だって、最初から言ってたんだから。
なのに胸の奥だけは、何故か鋭い痛みを感じた。
『透は、俺のこと、好きなの?』
『――好き……、』
好きだよ……。光樹先輩のこと、本当の兄のように思っていた。
『……透』
光樹先輩は、少し屈んで俺に目線を合わせた。
『お前は、本気で人を好きにならない……でしょ』
言ってる意味が分からずに、ただ光樹先輩の切れ長の目に映る、自分を見ていた。
『そうだな……透が、いつか本気で誰かに恋をした時は……』
光樹先輩が目を細めて、いつものように俺の髪をぐしゃぐしゃと掻きまわす。
『……俺が全力で、応援してあげるからね』
そうして、本当なのか冗談なのか分からない約束を残し、光樹先輩は歩いていってしまう。
俺に背中を向けたまま手を振って、
――――じゃあね。と、最後の言葉が聞こえてきた。
小さくなっていく光樹先輩の後ろ姿を、俺はその場所で立ち尽くしたまま、呆然と見送ることしか出来ずにいた。
***
光樹先輩を見たのは、それが最後で……。
――『お前は、本気で人を好きにならない……でしょ』
光樹先輩がなんでそんな事を言ったのかは、未だに全然分からなくて。
ただ……分かっているのは……、
やっぱりあの時に、光樹先輩が何度も囁いた言葉は全部嘘で。ただ『課外授業』という、遊びの中での台詞にすぎなかった。
分かっていたことだから、傷ついたとか、悲しかったとか、そんな感情はなくて、心は酷く冷めていたように思う。
ただ少し……、兄のように慕っていたから、そう……ただ少しだけ、逢えなくなるのが寂しかっただけ。
――『俺が全力で、応援してあげるからね』
「……反対に、邪魔してるし……」
直くんのマンションに行く途中にあるスーパーで、食欲がなくても食べれそうな物を探しながら、ポツリとそう呟いていた。
光樹先輩は、いつも、どこからどこまでが、本気なのか分からない。
俺は、それに振り回されていただけ。
きっと、直くんも……。
なんとなく店内を歩いていて、青果コーナーで色が綺麗で艶々と光っている大ぶりの苺が目に留まった。
イブの日、苺ののったケーキを頬張る直くんの顔を思い出して、自然に頬が緩む。
苺なら、食欲がなくても食べれるだろう。
お腹が空いてそうなら、また買いに行けばいいし、外で食べれそうなら外食でも……。
そんなことを考えながら、取り敢えず、苺だけ買って、直くんのマンションへと車を走らせた。
0
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる