出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 急に避けられている気がして……寂しかったんだ。だから理由を訊きたかった。

『――光樹先輩!』

 卒業式の後、校庭で卒業生達がそれぞれに写真を撮ったりして賑わっている中、一人校門から出て行くその背中を見つけて追いかけた。

 振り向いた光樹先輩の瞳は優しくて、いつもと変わらないのに……。

『透……、元気でな、バイバイ』

 俺の頭の上に手を置いて、そう言った。

 ――バイバイ……。

 それは「また明日」みたいに、次の約束をする言葉には聞こえなかった。

『……あのっ、またマンションに遊びに行っても、いいですか?』

 何故そんなことを訊いたのか、自分でも自分の気持ちがよく分からなかった。

『もうすぐ引っ越すから、あのマンションには、俺、いないよ』

『じゃ、じゃあ、……』

 引越し先はどこ? と、訊こうとする俺の言葉を遮るように、光樹先輩は言った。

『課外授業は、終わりだよ』

 俺を見つめる眼差しは優しいのに、その言葉は俺の胸に冷たく響く。

 ――分かってた。愛してるなんて嘘だって、分かってた。あれは、ただの課外授業だって、最初から言ってたんだから。

 なのに胸の奥だけは、何故か鋭い痛みを感じた。

『透は、俺のこと、好きなの?』

『――好き……、』

 好きだよ……。光樹先輩のこと、本当の兄のように思っていた。

『……透』

 光樹先輩は、少し屈んで俺に目線を合わせた。

『お前は、本気で人を好きにならない……でしょ』

 言ってる意味が分からずに、ただ光樹先輩の切れ長の目に映る、自分を見ていた。

『そうだな……透が、いつか本気で誰かに恋をした時は……』

 光樹先輩が目を細めて、いつものように俺の髪をぐしゃぐしゃと掻きまわす。

『……俺が全力で、応援してあげるからね』

 そうして、本当なのか冗談なのか分からない約束を残し、光樹先輩は歩いていってしまう。

 俺に背中を向けたまま手を振って、

 ――――じゃあね。と、最後の言葉が聞こえてきた。

 小さくなっていく光樹先輩の後ろ姿を、俺はその場所で立ち尽くしたまま、呆然と見送ることしか出来ずにいた。


 ***


 光樹先輩を見たのは、それが最後で……。

 ――『お前は、本気で人を好きにならない……でしょ』

 光樹先輩がなんでそんな事を言ったのかは、未だに全然分からなくて。

 ただ……分かっているのは……、

 やっぱりあの時に、光樹先輩が何度も囁いた言葉は全部嘘で。ただ『課外授業』という、遊びの中での台詞にすぎなかった。

 分かっていたことだから、傷ついたとか、悲しかったとか、そんな感情はなくて、心は酷く冷めていたように思う。

 ただ少し……、兄のように慕っていたから、そう……ただ少しだけ、逢えなくなるのが寂しかっただけ。


 ――『俺が全力で、応援してあげるからね』

「……反対に、邪魔してるし……」

 直くんのマンションに行く途中にあるスーパーで、食欲がなくても食べれそうな物を探しながら、ポツリとそう呟いていた。

 光樹先輩は、いつも、どこからどこまでが、本気なのか分からない。

 俺は、それに振り回されていただけ。

 きっと、直くんも……。

 なんとなく店内を歩いていて、青果コーナーで色が綺麗で艶々と光っている大ぶりの苺が目に留まった。

 イブの日、苺ののったケーキを頬張る直くんの顔を思い出して、自然に頬が緩む。

 苺なら、食欲がなくても食べれるだろう。

 お腹が空いてそうなら、また買いに行けばいいし、外で食べれそうなら外食でも……。

 そんなことを考えながら、取り敢えず、苺だけ買って、直くんのマンションへと車を走らせた。
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