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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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――1月4日。
夕方、静香と待ち合わせをして、適当に選んで入った店で静香はやっぱりケーキを食べていた。
「……やっぱり、あのいつものお店のケーキの方が美味しかったな」
店を出て、車を停めてある少し先のパーキングまで歩きながら、静香がぽつりと呟いた。
直くんのバイトをしているカフェレストランは、残念ながら今日は休みで――直くんも、今夜はサークルの飲み会があると言ってたな。
「……ね、お兄ちゃんも、あのお店に行きたかったでしょう?」
歩きながら腕を組んできた静香が下から俺を見上げてくる。
「……え? ああ……うん、そうだね」
静香には何でも見透かされそうで、慌てて腕時計を見るフリをした。
「……もうこんな時間か。早く帰らないと、お祖母ちゃん達待ってるよ」
「うん、そうだね。そう言えばお祖母ちゃん、透はまだ結婚しないの? って言ってたよ」
「……はは、そうなんだ」
静香は知ってるけど、祖父母には、まだ許婚の話をしていない。
「……お兄ちゃん、どうなの? 本当に美絵さんと結婚するの?」
「……そうだね」
結婚の話は、両家の間では、すぐにでもと言う勢いで進んでいるけれど、自分の中では出来るだけ先延ばしにしたいと考えている。せめて、あと1年……いや、半年でもいい。周りは多分、そんな甘い考えは許してくれないだろうけど。
「……お兄ちゃん、美絵さんのこと好きなの?」
「……」
そんな事を考えているのを、やっぱり見透かされた気がして、静香の言葉に即答できなかった。
「……嫌いじゃないよ」
「それって、好きじゃないってことよね」
「……そんな、こと……、」
今日に限って、突っ込んで訊いてくる静香に、思わず言い淀んでしまう。
「……お兄ちゃん、いくら会社の為でも好きでもないのに結婚したら、相手の人が可哀想よ」
――――『好きなんです。親が決めた縁談だけど、初めてお会いした時から……』
静香の言葉に、大晦日の夜の出来事が頭を過ぎって、胸の奥に痛みを感じた。
「……好き合って結婚しても、上手くいかない人もいるだろう?」
俺は結婚したら、ちゃんと相手を大切にするつもりでいる。父のようには、絶対ならない……つもりでいる。
――でも……本当にそうだろうか……。
好きでもないのに結婚したら、相手の人が可哀想――。
静香の言葉を頭の中で反芻すると、今まで頑なに信じていた壁のようなものが、少し崩れた気がしていた。
「……お兄ちゃん、やっぱりお父さんとお母さんのこと、引き摺っていたんだ」
パーキングに着いて車に乗り込み、エンジンをかける。
助手席に座った静香が俺の方を向き、真っ直ぐな視線を送ってくる。
「……そうだよ。どんなに愛し合って結婚したとしても、その先はどうなるか誰も分からない」
生涯変わらない愛なんてないだろう? だったら、誰と結婚しても同じだと思っていた。
家庭さえ大事にしていればいいと思っていた。
愛してるふりをしていれば、裏切られてしまっても、傷つかないなんて思っていた。
「そうね……」
静香は、そう言って小さく溜息をつく。
俺の方に向けていた、視線を前に戻して座り直す。
「変わらない愛なんてないと、私もそう思う」
その言葉に少し驚いて、助手席の静香に目を遣った。
静香もまた、俺の方に視線を合わせて、にっこり微笑んで言葉を続ける。
「……愛は、その時その時で形を変えるから」
夕方、静香と待ち合わせをして、適当に選んで入った店で静香はやっぱりケーキを食べていた。
「……やっぱり、あのいつものお店のケーキの方が美味しかったな」
店を出て、車を停めてある少し先のパーキングまで歩きながら、静香がぽつりと呟いた。
直くんのバイトをしているカフェレストランは、残念ながら今日は休みで――直くんも、今夜はサークルの飲み会があると言ってたな。
「……ね、お兄ちゃんも、あのお店に行きたかったでしょう?」
歩きながら腕を組んできた静香が下から俺を見上げてくる。
「……え? ああ……うん、そうだね」
静香には何でも見透かされそうで、慌てて腕時計を見るフリをした。
「……もうこんな時間か。早く帰らないと、お祖母ちゃん達待ってるよ」
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「……はは、そうなんだ」
静香は知ってるけど、祖父母には、まだ許婚の話をしていない。
「……お兄ちゃん、どうなの? 本当に美絵さんと結婚するの?」
「……そうだね」
結婚の話は、両家の間では、すぐにでもと言う勢いで進んでいるけれど、自分の中では出来るだけ先延ばしにしたいと考えている。せめて、あと1年……いや、半年でもいい。周りは多分、そんな甘い考えは許してくれないだろうけど。
「……お兄ちゃん、美絵さんのこと好きなの?」
「……」
そんな事を考えているのを、やっぱり見透かされた気がして、静香の言葉に即答できなかった。
「……嫌いじゃないよ」
「それって、好きじゃないってことよね」
「……そんな、こと……、」
今日に限って、突っ込んで訊いてくる静香に、思わず言い淀んでしまう。
「……お兄ちゃん、いくら会社の為でも好きでもないのに結婚したら、相手の人が可哀想よ」
――――『好きなんです。親が決めた縁談だけど、初めてお会いした時から……』
静香の言葉に、大晦日の夜の出来事が頭を過ぎって、胸の奥に痛みを感じた。
「……好き合って結婚しても、上手くいかない人もいるだろう?」
俺は結婚したら、ちゃんと相手を大切にするつもりでいる。父のようには、絶対ならない……つもりでいる。
――でも……本当にそうだろうか……。
好きでもないのに結婚したら、相手の人が可哀想――。
静香の言葉を頭の中で反芻すると、今まで頑なに信じていた壁のようなものが、少し崩れた気がしていた。
「……お兄ちゃん、やっぱりお父さんとお母さんのこと、引き摺っていたんだ」
パーキングに着いて車に乗り込み、エンジンをかける。
助手席に座った静香が俺の方を向き、真っ直ぐな視線を送ってくる。
「……そうだよ。どんなに愛し合って結婚したとしても、その先はどうなるか誰も分からない」
生涯変わらない愛なんてないだろう? だったら、誰と結婚しても同じだと思っていた。
家庭さえ大事にしていればいいと思っていた。
愛してるふりをしていれば、裏切られてしまっても、傷つかないなんて思っていた。
「そうね……」
静香は、そう言って小さく溜息をつく。
俺の方に向けていた、視線を前に戻して座り直す。
「変わらない愛なんてないと、私もそう思う」
その言葉に少し驚いて、助手席の静香に目を遣った。
静香もまた、俺の方に視線を合わせて、にっこり微笑んで言葉を続ける。
「……愛は、その時その時で形を変えるから」
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