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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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「そっ、そんな事ないよッ!」
そう言って直くんが顔を真っ赤にしながら、突然俺の下半身に手を伸ばしてきた。
「透さんこそ、大丈夫なの?」
「ん? えっ、ぁッ!」
今にも爆ぜそうに硬くなっている部分をスラックスの上から触れられて、思わず身体が強張ってしまう。
――隠していたつもりだったんだけどな……。
「透さん、勃ってるでしょ?」
「俺はいいよ、直くん」
笑いながら、直くんの手首を掴んで唇を近づけて、掌にキスを落として、内心焦っているのを誤魔化した。
そんな事をされると、自分の欲望を止めることができなくなってしまう。
ここが閑静な住宅街だとか、車の中だとか忘れてしまいそうで。
直くんを家に帰したくなくなってしまう。
そうなってしまったら、直くんに俺の本心を見抜かれてしまいそうで怖かった。
10歳も年上の……男の俺なんかが……。18歳の直くんを本気で手放したくないなんて、思ってることを知られるのが。
だから、自分の身体の熱が上がるのを、直くんのせいみたいに言ってしまった。
「本当は、真っ直ぐ帰るつもりだったのに、直くんの可愛い格好に、思わず欲情しちゃったよ」
「え?……」
直くんが、少し不思議そうな顔をしているのを気付かないふりをして、車をバックさせる。
女装してるから欲情したと取ってくれる方が、お互い楽なんじゃないかと思っていた。
――俺の本心は、知らなくていいよ。
だから、少しでも長く君と……。
この曖昧な関係を少しでも長く続けたいなんて、それはずるい考えだと分かっていたけれど……。
この時の俺には、それしか考えることが出来なくて、後になって酷く後悔することになるなんて、知らずにいた。
***
直くんのマンションの前で車を停めて、後部座席に置いたままだったコートを取って渡してあげると、直くんは「ありがとう」と言って、ニコッと笑う。
助手席でコートを羽織ろうとしている直くんを見ていたら、また、このまま帰したくない気持ちが強くなってきてしまった。
つい……、コートの袖に通そうとしている腕を掴んで、ぐいっと引き寄せてしまって……。
そんな自分の行動を、今更止めることも出来ずに、何か言いかけた唇を塞いだ。
「……ん」
重ねるだけのキスをして、なんとか唇を離したけれど、掴んだ腕は離せずにいた。
「透さん?」
「あ、ああ、ごめん、」
俺が手を離そうとすると、今度は直くんの方から、チュッと唇を啄ばんでくる。
「続きは、また今度ね」と俺が言うと、真っ赤になるくせに。
直くんが車を降りてから窓を開けると、「運転、気をつけてね、透さん」と言って、腰を屈めて中を覗きこんでくる。
ウィッグの髪が、風に吹かれてなびいたのと同時に、ふわりと直くんの匂いが漂って、また名残惜しくなってしまう気持ちを抑えるのが大変だった。
「直くんも、寒いから、早く家に入りなさい」
「大丈夫。俺、透さんの車を見送ってから入るから」
首を竦めて寒そうにしているのに、また引き止めたくなるような言葉を言ってくれる。
「じゃあ、また連絡するね」
「うん」
バックミラーの中で、手を振る直くんの姿が小さくなっていく。
寒いのに車が角を曲がるまで、ずっと見送ってくれていた。
直くんのいなくなった助手席が、妙に寒々しく感じてしまって、思わず苦笑した。
――連絡すれば、またいつでも逢えるのにと……。
そう言って直くんが顔を真っ赤にしながら、突然俺の下半身に手を伸ばしてきた。
「透さんこそ、大丈夫なの?」
「ん? えっ、ぁッ!」
今にも爆ぜそうに硬くなっている部分をスラックスの上から触れられて、思わず身体が強張ってしまう。
――隠していたつもりだったんだけどな……。
「透さん、勃ってるでしょ?」
「俺はいいよ、直くん」
笑いながら、直くんの手首を掴んで唇を近づけて、掌にキスを落として、内心焦っているのを誤魔化した。
そんな事をされると、自分の欲望を止めることができなくなってしまう。
ここが閑静な住宅街だとか、車の中だとか忘れてしまいそうで。
直くんを家に帰したくなくなってしまう。
そうなってしまったら、直くんに俺の本心を見抜かれてしまいそうで怖かった。
10歳も年上の……男の俺なんかが……。18歳の直くんを本気で手放したくないなんて、思ってることを知られるのが。
だから、自分の身体の熱が上がるのを、直くんのせいみたいに言ってしまった。
「本当は、真っ直ぐ帰るつもりだったのに、直くんの可愛い格好に、思わず欲情しちゃったよ」
「え?……」
直くんが、少し不思議そうな顔をしているのを気付かないふりをして、車をバックさせる。
女装してるから欲情したと取ってくれる方が、お互い楽なんじゃないかと思っていた。
――俺の本心は、知らなくていいよ。
だから、少しでも長く君と……。
この曖昧な関係を少しでも長く続けたいなんて、それはずるい考えだと分かっていたけれど……。
この時の俺には、それしか考えることが出来なくて、後になって酷く後悔することになるなんて、知らずにいた。
***
直くんのマンションの前で車を停めて、後部座席に置いたままだったコートを取って渡してあげると、直くんは「ありがとう」と言って、ニコッと笑う。
助手席でコートを羽織ろうとしている直くんを見ていたら、また、このまま帰したくない気持ちが強くなってきてしまった。
つい……、コートの袖に通そうとしている腕を掴んで、ぐいっと引き寄せてしまって……。
そんな自分の行動を、今更止めることも出来ずに、何か言いかけた唇を塞いだ。
「……ん」
重ねるだけのキスをして、なんとか唇を離したけれど、掴んだ腕は離せずにいた。
「透さん?」
「あ、ああ、ごめん、」
俺が手を離そうとすると、今度は直くんの方から、チュッと唇を啄ばんでくる。
「続きは、また今度ね」と俺が言うと、真っ赤になるくせに。
直くんが車を降りてから窓を開けると、「運転、気をつけてね、透さん」と言って、腰を屈めて中を覗きこんでくる。
ウィッグの髪が、風に吹かれてなびいたのと同時に、ふわりと直くんの匂いが漂って、また名残惜しくなってしまう気持ちを抑えるのが大変だった。
「直くんも、寒いから、早く家に入りなさい」
「大丈夫。俺、透さんの車を見送ってから入るから」
首を竦めて寒そうにしているのに、また引き止めたくなるような言葉を言ってくれる。
「じゃあ、また連絡するね」
「うん」
バックミラーの中で、手を振る直くんの姿が小さくなっていく。
寒いのに車が角を曲がるまで、ずっと見送ってくれていた。
直くんのいなくなった助手席が、妙に寒々しく感じてしまって、思わず苦笑した。
――連絡すれば、またいつでも逢えるのにと……。
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