出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
279 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―

(44)

しおりを挟む
「そっ、そんな事ないよッ!」

 そう言って直くんが顔を真っ赤にしながら、突然俺の下半身に手を伸ばしてきた。

「透さんこそ、大丈夫なの?」

「ん? えっ、ぁッ!」

 今にも爆ぜそうに硬くなっている部分をスラックスの上から触れられて、思わず身体が強張ってしまう。

 ――隠していたつもりだったんだけどな……。

「透さん、勃ってるでしょ?」

 「俺はいいよ、直くん」

 笑いながら、直くんの手首を掴んで唇を近づけて、掌にキスを落として、内心焦っているのを誤魔化した。

 そんな事をされると、自分の欲望を止めることができなくなってしまう。

 ここが閑静な住宅街だとか、車の中だとか忘れてしまいそうで。

 直くんを家に帰したくなくなってしまう。 

 そうなってしまったら、直くんに俺の本心を見抜かれてしまいそうで怖かった。

 10歳も年上の……男の俺なんかが……。18歳の直くんを本気で手放したくないなんて、思ってることを知られるのが。

 だから、自分の身体の熱が上がるのを、直くんのせいみたいに言ってしまった。

「本当は、真っ直ぐ帰るつもりだったのに、直くんの可愛い格好に、思わず欲情しちゃったよ」

「え?……」

 直くんが、少し不思議そうな顔をしているのを気付かないふりをして、車をバックさせる。

 女装してるから欲情したと取ってくれる方が、お互い楽なんじゃないかと思っていた。

 ――俺の本心は、知らなくていいよ。

 だから、少しでも長く君と……。

 この曖昧な関係を少しでも長く続けたいなんて、それはずるい考えだと分かっていたけれど……。

 この時の俺には、それしか考えることが出来なくて、後になって酷く後悔することになるなんて、知らずにいた。

 ***

  直くんのマンションの前で車を停めて、後部座席に置いたままだったコートを取って渡してあげると、直くんは「ありがとう」と言って、ニコッと笑う。

 助手席でコートを羽織ろうとしている直くんを見ていたら、また、このまま帰したくない気持ちが強くなってきてしまった。
 
 つい……、コートの袖に通そうとしている腕を掴んで、ぐいっと引き寄せてしまって……。

 そんな自分の行動を、今更止めることも出来ずに、何か言いかけた唇を塞いだ。

「……ん」

 重ねるだけのキスをして、なんとか唇を離したけれど、掴んだ腕は離せずにいた。

「透さん?」

「あ、ああ、ごめん、」

 俺が手を離そうとすると、今度は直くんの方から、チュッと唇を啄ばんでくる。

「続きは、また今度ね」と俺が言うと、真っ赤になるくせに。

 直くんが車を降りてから窓を開けると、「運転、気をつけてね、透さん」と言って、腰を屈めて中を覗きこんでくる。

 ウィッグの髪が、風に吹かれてなびいたのと同時に、ふわりと直くんの匂いが漂って、また名残惜しくなってしまう気持ちを抑えるのが大変だった。

「直くんも、寒いから、早く家に入りなさい」

「大丈夫。俺、透さんの車を見送ってから入るから」

 首を竦めて寒そうにしているのに、また引き止めたくなるような言葉を言ってくれる。

「じゃあ、また連絡するね」

「うん」

 バックミラーの中で、手を振る直くんの姿が小さくなっていく。

 寒いのに車が角を曲がるまで、ずっと見送ってくれていた。

 直くんのいなくなった助手席が、妙に寒々しく感じてしまって、思わず苦笑した。

 ――連絡すれば、またいつでも逢えるのにと……。

しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...