274 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(39)
しおりを挟む
翌日の会食が長引いてしまい、直くんとの約束に間に合いそうになくて、1時間ほど遅れることを伝える為に電話をかけた。
その時、通話口の向こうに何やら楽しそうな気配を感じたのを、直くんの実家方面に向かう車の中で思い出していた。
ごく普通の楽しそうで平和な正月なんて、あまり俺の記憶にはなくて、羨ましいな、なんて思う。
正月で混んでるだろうと思っていた道も意外と空いていて、予定よりも早く約束の場所に到着した。
よくある駅前のロータリーは、そんなに人も車も多くない。
直くんの家は、ここから近いのかな。
ちょっと早く着きすぎたかな。
そう思いながら車の外に出て、辺りの風景を見渡した。
今到着したばかりのバスから、意外と大勢の乗客が降りてくるのをなんとなく眺めていて、その中に、ひときわ目立つ女の子に目が留まった。
――あれ?
身長も女の子にしては高くて、胸の辺りまで伸ばした金髪に近い綺麗な髪。黒のリボンカチューシャが、よく似合ってる。
グレーのダッフルコートの下から見える、ふわふわした黒いスカートを気にしながら歩いてる女の子?
思わず口元が緩んで、吹き出しそうになった。
その子の方に近付いていくと、こちらを見ないように逃げようとしているのが可笑しくて。
「直くん?」
声をかけると、固まったように動かなくなってる。
「……直くんだよね?」
笑いを堪えてもう一度確認したら、直くんは耳まで真っ赤になって振り向いた。
「……はい、直です」
観念したように応えたけど、そんな格好で俺に気が付かないフリをして、いったいどこに行くつもりだったの? ――と、思うと、また笑いが込み上げてくる。
「あの……、どうしてこんな格好を?」
そう言って、顔を覗きこむと、余計に焦って真っ赤になっている。
「えと、その……説明するから、車に乗ってもいい?」
スカートを押さえながら、周りの視線を気にしてる格好が可愛すぎる。
「そうだね。寒そうだし、早く車に行こう」
もう笑いを我慢することができずに、直くんの肩を抱き寄せながらも、クスクスと笑いが漏れてしまっていた。
「どこから、どう見ても女の子に見えるよ」
「そ……そうかな。でも俺だと、よく分かりましたね?」
――そりゃ、分かるよ……。
でも、直くんは、ばれないと思ったから、さっき気が付かないフリをしていたのかと思うと、可笑しくて、可愛くて、そして……ちょっとだけ苛めたくなってしまった。
助手席のドアを開けて「どうぞ、お嬢様」とふざけると、「う、やめてください」と言って、更に顔を赤らめていた。
やっぱり、君といると楽しいよ、直くん。
大晦日から今日までの、気が重かった数日がウソのように思えていた。
その時、通話口の向こうに何やら楽しそうな気配を感じたのを、直くんの実家方面に向かう車の中で思い出していた。
ごく普通の楽しそうで平和な正月なんて、あまり俺の記憶にはなくて、羨ましいな、なんて思う。
正月で混んでるだろうと思っていた道も意外と空いていて、予定よりも早く約束の場所に到着した。
よくある駅前のロータリーは、そんなに人も車も多くない。
直くんの家は、ここから近いのかな。
ちょっと早く着きすぎたかな。
そう思いながら車の外に出て、辺りの風景を見渡した。
今到着したばかりのバスから、意外と大勢の乗客が降りてくるのをなんとなく眺めていて、その中に、ひときわ目立つ女の子に目が留まった。
――あれ?
身長も女の子にしては高くて、胸の辺りまで伸ばした金髪に近い綺麗な髪。黒のリボンカチューシャが、よく似合ってる。
グレーのダッフルコートの下から見える、ふわふわした黒いスカートを気にしながら歩いてる女の子?
思わず口元が緩んで、吹き出しそうになった。
その子の方に近付いていくと、こちらを見ないように逃げようとしているのが可笑しくて。
「直くん?」
声をかけると、固まったように動かなくなってる。
「……直くんだよね?」
笑いを堪えてもう一度確認したら、直くんは耳まで真っ赤になって振り向いた。
「……はい、直です」
観念したように応えたけど、そんな格好で俺に気が付かないフリをして、いったいどこに行くつもりだったの? ――と、思うと、また笑いが込み上げてくる。
「あの……、どうしてこんな格好を?」
そう言って、顔を覗きこむと、余計に焦って真っ赤になっている。
「えと、その……説明するから、車に乗ってもいい?」
スカートを押さえながら、周りの視線を気にしてる格好が可愛すぎる。
「そうだね。寒そうだし、早く車に行こう」
もう笑いを我慢することができずに、直くんの肩を抱き寄せながらも、クスクスと笑いが漏れてしまっていた。
「どこから、どう見ても女の子に見えるよ」
「そ……そうかな。でも俺だと、よく分かりましたね?」
――そりゃ、分かるよ……。
でも、直くんは、ばれないと思ったから、さっき気が付かないフリをしていたのかと思うと、可笑しくて、可愛くて、そして……ちょっとだけ苛めたくなってしまった。
助手席のドアを開けて「どうぞ、お嬢様」とふざけると、「う、やめてください」と言って、更に顔を赤らめていた。
やっぱり、君といると楽しいよ、直くん。
大晦日から今日までの、気が重かった数日がウソのように思えていた。
0
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる