出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 昨日実家に置いてきてしまった車を取りに行ってから会場を訪れたので、着いたらパーティはもう始まっていた。

 パーティはカジュアルな立食形式なのだけど、本当に退屈で、車だから酒を呑むわけにもいかずに、手持ち無沙汰だ。

 美絵さんは、社長に従いて挨拶回りが忙しいみたいで、別に俺が来なくても大丈夫だったな……。と、内心溜息をつく。

 俺自身も、継母に捕まったりしたら面倒なので、会場の隅でなるべく目立たないように時間が経つのを待っていた。

 途中、外の空気を吸いたくて会場を抜け出してホテルの中庭に出た。

 退屈なパーティの時間の過ごし方は、昔からもう慣れている。

 小さなチャペルがあって、季節が好い頃なら、ガーデンウエディングもできそうなスペース。

 芝生の上に設置してある、白いガーデンテーブルセットの椅子に腰掛けた。

 寒いけど、中にいるよりは心地よい空気にホッとしていた。

 明日も取引先との会食に、父と坂上社長に付き合わなくてはならない。正月休みは、そんな予定ばかりで一杯になっていた。

 ――直くんは、どうしているだろう。

 すぐに思い出してしまう自分に、少し呆れてしまうけど。 声を……聞きたくて。

「――直くん? 明けましておめでとう」

 携帯の呼び出しは1回だけで、すぐに『もしもし、透さん?』と、直くんの声がした。それだけで、すぐにでも逢いに行きたい。

 たわいない会話をしながら、逢える時間を作れないかと考えてしまう。

「ところで、直くんいつまで実家にいる?」

『んー、考えてないんだけど、4日に飲み会があるから、それまでには帰るつもりです』

 4日か、4日……は、静香との約束があった。

 明日の予定は、昼の会食と、そのまま実家に行く予定だったけど。

『どうしたんですか?』

「ん、いや、明日ね、少し時間空いたから、逢えるかなと思ったんだけど、あ、まだ実家ならいいよ。また次回……」

『明日、大丈夫です!』

 俺が言い終わらないうちに、直くんの言葉が返ってきた。

 嬉しいけど、無理はさせたくなかった。久しぶりに実家に帰っているのだから。本当にそう思ったんだけど……。

『いえ、ホントに、実家にいても暇だし、明日戻ります……だから……逢いたいです』

「……」

 嬉しくて、言葉に詰まってしまった。

 ――『逢いたいです』そのひとことが、ただ嬉しい。

 ゆっくりとした時間も取れないし、本当に直くんのマンションまで送ってあげるだけしか出来ないかもしれないのに、それでもいいと、直くんは言ってくれた。

 この関係は、そう長くは続かないだろうけど、一緒にいることが出来る間は、大切にしたいと思う。

 君が、俺から離れていくその時まで……。

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