出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 ***

 翌日、部屋に響く携帯の音で目が醒めた。

 ――いつの間に寝てしまったのか……。

 昨夜、自分のマンションに辿り着いてから寝室に着替えに来たけれど、何もする気力が起きずにベッドの上に倒れこんだ。

 考えても考えても何も結論が出ず、上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めただけで、そのまま眠ってしまっていたようだ。

 上着を拾い、ポケットの中の携帯を取り出して受話ボタンを押して耳に当てる。

「……はい……」

 起き抜けで、声が上手く出せずに掠れてしまった。

『もしもし、お兄ちゃん?』

「……ああ、静香か」

『あれ? もしかしてまだ寝てた?』

 言われて、ベッドサイドチェストの上の時計に目を遣ると、もう11時。

「ああ……寝てた……」

『’……珍しいね。お兄ちゃんがこんな時間まで寝てるのなんて』

「昨夜……、遅かったから……」

『ふーん、なんかまだ寝ぼけてる感じだけど、今日は元旦だって、分かってる?』

「……あ……、そうだったね。明けましておめでとう」

 忘れていたわけじゃないけど……。

 寝起きのせいかまだボーっとしていて、とってつけたように挨拶する俺に、静香が不満そうに「今年もよろしくお願いします」と応える。

『ところでお兄ちゃん、4日って会える?』

「4日? 仕事はまだ休みだし、大丈夫だよ?」

『そぉ? じゃあ、何処かで待ち合わせして、あ、ケーキでも食べて、で、そのまま家に来ない?』

『家』というのは、亡くなった母の実家のことだ。

「んー、そうだね。あぁでも、カフェレストランはまだ休みだよ」

『え? そうなの? 残念だな。でも休みって、よく知ってるね?』

 4日が休みだということは、直くんから訊いていたから知ってたんだけど、それを静香に言うわけにもいかずに焦った。

「あ、ああ、あの店の周りはオフィス街だから、普段も日曜定休だし、まだ休みの会社が多いから、多分あの店も休みじゃないかな」

『へぇ、そうなんだ。あんまり詳しいから、お兄ちゃん、私がいなくてもあの店に通ってるのかと思っちゃった』

 鋭いところを突いてくる静香に、すっかり目が醒めてしまった。

 静香と4日に会う約束をして、携帯をサイドテーブルに置き、バスルームへ向かう。

 ――今日のパーティは、確か13時からだと言ってたな。

 頭からシャワーの飛沫を浴びながら、昨夜のことをまた考えている。

 パーティに行くのは気が重いし、美絵さんにどんな顔して会えばいいのかと思うけど、今日のパーティには行くと言ってしまったのだから。約束を破ったりして、これ以上失礼なことはしてはいけないだろう。

 今日のパーティは、彼女の話し相手になるだけ……。終わったら、すぐに帰ろう。

 そんなことを考えながらも、他のところに思いを馳せる。

 ――今頃、直くんは、実家で何をして過ごしているんだろう。
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