出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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「え、でも……。まだ時間も早いですし……私はホテルに帰ろうと思います」

 美絵さんの言葉を聞いて、内心ホッと胸を撫で下ろした。

「あら、そうなの? そうね、また明日もありますしね。じゃあ透さん、ホテルまで送ってあげてくださいね」

 ――え?

 それは、美絵さんだけをホテルまで送れということらしくて……継母は、どうしても俺と美絵さんを、二人きりにしたいようだった。

「……でも社長達はどうされるんですか?」

 できる事なら、今、二人きりになるのは避けたい……なんて考えてしまう。社長夫妻も一緒にならと思い、そう言ってみるも、話の流れを変えることは難しかった。

「ああ、私達はまだ、篠崎社長ともう少し飲みたいのでね。美絵はどうも酒が呑めなくて。疲れてるようだし、送ってやってくれるかな」

「でも、私もワインをいただいてしまいましたし、車の運転は……」

 酔ってるわけではないけれど、一応アルコールを飲んでしまっているし、それでもまさか送れとは言わないだろう。と、思ったのに、そこで継母が口を挟んでくる。

「あら、じゃあ今、車を呼びますわね。透さん、ちゃんと送ってあげてくださいね。慣れない所で独りでは可哀想ですから」

 確かにその通りで、継母の言葉に俺は、「……はい」と、応えるしかなかった。

 ――ホテルまで送り届けるだけだ。この場所から逃れて外に行けるだけでも、ありがたい。それにそのまま、自分のマンションに帰れば良いし。 

 仕方なく愛想笑いを浮かべながら、そう考えていた。


***


「じゃあ、俺はここで失礼します」

「……透さん、お部屋まで送っていただけないんですか?」

 ホテルの前で、乗ってきたタクシーでそのまま帰ろうとしている俺に、美絵さんは、か細い声でそう言って、不安そうな瞳で俺を見上げてくる。

「……え、でも……」

「お願いです。お部屋の前までで構いませんので……」

「……」

 慣れない場所が不安なのか、少しは酔いが回っているからなのか、本当に頼りなげに立っている美絵さんをそのままにして帰るのは、可哀相な気がして……。

「分かりました。じゃあ、部屋の前まで一緒に行きましょう」

「ありがとうございます。我儘言って、ごめんなさい」

 本当に申し訳なさそうに謝る美絵さんに、「大丈夫ですよ、じゃ、行きましょうか」と笑いかけて、ゆっくりと歩き出した。
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