254 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(19)
しおりを挟む
『出るの速いな、透』
だけど聞こえてきたのは、久しぶりに聞く父親の声だった。
――何を期待しているんだ俺は……。
好きな人に告白して、その返事を待ち焦がれて、かかってきた電話に飛びついて。まるで初めて恋をした中学生のような自分の行動に、思わず溜め息をつく。
「……何か、用ですか」
今勤めている会社は父の経営する会社ではなく、ゆくゆくは業務提携をする予定になっている相手の会社だから、実家にも寄り付かない俺は、父と話すのは、ほぼ1年ぶりくらいだった。
『相変わらず、つれないね』
「すみません、急いでいますので」
昔から折り合いの悪い父とゆっくり話す気にもなれずに、素っ気無い受け応えしかできなかった。――今は、特に……。
『じゃあ、用件だけ言う。大晦日は、帰ってこれるだろうね?』
「大晦日ですか。何かあるんですか?」
『そっちの社長からは連絡なかったか? 美絵さんとこちらに来るので、一緒に食事をする事になっているんだが』
そっちの社長というのは、俺が勤めている会社の社長で、美絵さんはその娘で俺の婚約者。
親同士が勝手に決めた話だったけれど、俺はその人と結婚する事を甘んじて受け入れている。今までは、それでいいと思っていた。結婚なんて形だけのものだから。
美絵さんとは、今までに何度か会ったことはある。見た目は、清楚なお嬢様という感じだった。向こうも、会社の為の結婚だと言うのは納得した上でのことだし、お互い何の疑問も持たずに、このまま結婚すると思っていた。
――だけど……。
「俺も、行かないと駄目ですか?」
『当たり前だろう?』
だけど――ここのところ自分の中で何かが変化しているのを感じずにはいられなかった。
「……分かりました」
それでも、それがどういう変化なのか、この時はまだ、はっきりとは分かっていなかった。
父との通話を切り、車に乗り込む。
フロントガラスから見上げれば、どんよりとした冬の夜空には星ひとつ見えない。
――いつからだろう。
昔はこんな俺でも、夢を見ていた時期もあった気がするのに。いつの間にか、見えなくなっていた世界。
直くんに惹かれたのは、彼の周りが明るかったからかもしれない。俺の周りには無い、色が見えた気がしていた。
もう直くんはとっくに帰っただろう、自分のマンションの玄関の鍵を開け、ドア横のポストを確認する。
そこに、部屋の鍵があるのを見つけて、少しだけ見えかけていた色が完全に消えてしまった気がして、どうしようもなく込み上げてくるやるせない想い。
自分で直くんに決断を委ねたのに、もう一度だけでいいから逢いたいなんて、また未練がましいことを思っていた。
だけど聞こえてきたのは、久しぶりに聞く父親の声だった。
――何を期待しているんだ俺は……。
好きな人に告白して、その返事を待ち焦がれて、かかってきた電話に飛びついて。まるで初めて恋をした中学生のような自分の行動に、思わず溜め息をつく。
「……何か、用ですか」
今勤めている会社は父の経営する会社ではなく、ゆくゆくは業務提携をする予定になっている相手の会社だから、実家にも寄り付かない俺は、父と話すのは、ほぼ1年ぶりくらいだった。
『相変わらず、つれないね』
「すみません、急いでいますので」
昔から折り合いの悪い父とゆっくり話す気にもなれずに、素っ気無い受け応えしかできなかった。――今は、特に……。
『じゃあ、用件だけ言う。大晦日は、帰ってこれるだろうね?』
「大晦日ですか。何かあるんですか?」
『そっちの社長からは連絡なかったか? 美絵さんとこちらに来るので、一緒に食事をする事になっているんだが』
そっちの社長というのは、俺が勤めている会社の社長で、美絵さんはその娘で俺の婚約者。
親同士が勝手に決めた話だったけれど、俺はその人と結婚する事を甘んじて受け入れている。今までは、それでいいと思っていた。結婚なんて形だけのものだから。
美絵さんとは、今までに何度か会ったことはある。見た目は、清楚なお嬢様という感じだった。向こうも、会社の為の結婚だと言うのは納得した上でのことだし、お互い何の疑問も持たずに、このまま結婚すると思っていた。
――だけど……。
「俺も、行かないと駄目ですか?」
『当たり前だろう?』
だけど――ここのところ自分の中で何かが変化しているのを感じずにはいられなかった。
「……分かりました」
それでも、それがどういう変化なのか、この時はまだ、はっきりとは分かっていなかった。
父との通話を切り、車に乗り込む。
フロントガラスから見上げれば、どんよりとした冬の夜空には星ひとつ見えない。
――いつからだろう。
昔はこんな俺でも、夢を見ていた時期もあった気がするのに。いつの間にか、見えなくなっていた世界。
直くんに惹かれたのは、彼の周りが明るかったからかもしれない。俺の周りには無い、色が見えた気がしていた。
もう直くんはとっくに帰っただろう、自分のマンションの玄関の鍵を開け、ドア横のポストを確認する。
そこに、部屋の鍵があるのを見つけて、少しだけ見えかけていた色が完全に消えてしまった気がして、どうしようもなく込み上げてくるやるせない想い。
自分で直くんに決断を委ねたのに、もう一度だけでいいから逢いたいなんて、また未練がましいことを思っていた。
0
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪


Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる