出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 朝の早過ぎる時間は道も空いていて、あっという間に会社に着いてしまう。

 逃げるようにして、マンションを出てきてしまったけれど……。

 直くんは、まだ眠っているんだろうか。起きた時に俺がいない事に気付いたら、驚くだろうか。寝ぼけ眼で、あのメモを見つけて……それから……。

 自分の考えかけたことに、思わず苦笑してしまう。この先のことも、考えることも全部、直くんに押し付けてしまったのに。連絡をくれるだろうか、なんて思う事自体、あまりにも自分勝手過ぎる。

 もしも……直くんが連絡をくれなかったら……もう、これきりというだけの話だ。昨夜の事は過ちで、もう忘れたいと思ったと言う事だ。

 そうなる事が、お互いにとっては一番良い決断になるんだろう。直くんが、その決断を選べばいいと思ってる。俺は、そう自分に言い聞かせた……。

 **

 まだ誰も出社していない社内は静か過ぎて、自分の歩く靴音だけが寂しくこだまする。

 自分のデスクで、持ってきた新聞を広げて記事に目を通そうとするけれど、字を追っているだけで、何も頭に入ってこなかった。

 自販機で買ったコーヒーの紙コップを口元に付けたまま溜息を吐くと、暖かい湯気が目の前に白く広がって消えていく。

 昨夜、熱くなってしまった自分の想いも、きっとすぐに冷めて消えていくだろう。

 ――そう思っているのに……。

 直くんが連絡をくれなかったら、もう、本当に逢う事はなくなる。そう考えると胸の奥が酷く痛む。自分で直くんに決断を委ねたくせに。

 それなのに心の何処かで、直くんは連絡をくれるんじゃないか……なんて、また考えてしまう。

 直くんが昨夜の快楽を忘れる事ができなくて、俺と逢いたいと思ってくれるんじゃないかって……。

 俺は、なんて自分勝手で、ずるい大人なんだと自嘲した。

 直くんが連絡をしてこない決断をする事が、一番良いと分かっているじゃないか。

 邪な考えを振り切る為に頭を横に何度も振った。

 就業開始時刻が近づくにつれ、徐々にいつもの慌ただしい日常が始まる。その中に溶け込んでいれば、昨夜の甘い情事も自分勝手な欲望も、忘れる事ができるだろうと思っていた。


 ***


 仕事を終えて、駐車場へ向かう途中、胸ポケットに入れていた携帯が振動して、思わず身体が跳ねた。

 ――直くん?!

 期待などしないつもりでいたのに、条件反射のようにそれを取り出して、確認もせずに通話ボタンを押してしまう。

 実際、忘れようと努力していたつもりでも、今日一日頭の中から直くんの顔が消えることは無かった……。

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