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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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直くんはきっと『今』だけを望む。男同士で『これからもずっと』は、選択肢には入らないのだから。
俺にとっても、それ以上の関係は先が見えない。愛おしいと思う気持ちが変わらない保障もない。大切に思えば思うほど、壊してしまいそうで怖かった。
想いの行き場は見つからずに、やがて東の空が白み始めて朝が訪れても、眠ることも出来ずにいる。本当はもう自分の中で答えは出ている筈なのに。
眠っている直くんの前髪を流すように指で梳いて、額に唇を寄せた。
このまま直くんの体温を感じながら、眠りたいけれど……。煮え切らない気持ちを抱えたまま、寝室を出てキッチンに向かう。
コーヒーを淹れながら、今日の予定を考える。一睡もしていないのに不思議と頭は、はっきりとしていた。
昨日、残っていた仕事は片付けたから、急いで出社する必要もないのだけれど……。
熱いコーヒーをひとくち飲んだだけで立ち上がり、冷蔵庫を開けて適当に材料を見繕って、キッチンのワークトップの上に並べていく。
――起きてきたら、これくらいなら食べるだろう。そう思いながら、直くんのためにサンドイッチを作っておく。
着替えるためにもう一度寝室に戻ると、ベッドの上の直くんはさっきまで仰向けだったのに、今はうつ伏せになって、気持ち良さそうに寝息を立てていた。かけていた筈の布団を足で蹴って反転したのか、脚の間に布団が絡まっている。
「寝相、悪いんだな」
ひとりごちながら、ふっと、堪えきれない笑い声を漏らしてしまった。
脚に絡まった布団は取れないから、毛布をもう1枚出してきて背中に掛けてやり、うつ伏せで寝ている直くんの項にキスをした。
「おやすみ、直くん」
小声でそれだけ言ってから、ウォークインクローゼットの中でスーツに着替えてリビングに戻った。
電話の横のメモホルダーから紙とペンを取り、ありきたりのメッセージを残す。
『おはよう。今日仕事なので出かけます。サンドイッチ作ったので、良かったら食べてね。飲み物は、適当になんでも飲んでいいから。鍵は、ドア横のポストに入れておいてください』
それから、少し考えて……自分の携帯の番号を一番下に付け足した。
――やっぱり俺は……ずるい。
自分では、どうしても引き際を決められずに、直くんに決断を委ねた。
俺にとっても、それ以上の関係は先が見えない。愛おしいと思う気持ちが変わらない保障もない。大切に思えば思うほど、壊してしまいそうで怖かった。
想いの行き場は見つからずに、やがて東の空が白み始めて朝が訪れても、眠ることも出来ずにいる。本当はもう自分の中で答えは出ている筈なのに。
眠っている直くんの前髪を流すように指で梳いて、額に唇を寄せた。
このまま直くんの体温を感じながら、眠りたいけれど……。煮え切らない気持ちを抱えたまま、寝室を出てキッチンに向かう。
コーヒーを淹れながら、今日の予定を考える。一睡もしていないのに不思議と頭は、はっきりとしていた。
昨日、残っていた仕事は片付けたから、急いで出社する必要もないのだけれど……。
熱いコーヒーをひとくち飲んだだけで立ち上がり、冷蔵庫を開けて適当に材料を見繕って、キッチンのワークトップの上に並べていく。
――起きてきたら、これくらいなら食べるだろう。そう思いながら、直くんのためにサンドイッチを作っておく。
着替えるためにもう一度寝室に戻ると、ベッドの上の直くんはさっきまで仰向けだったのに、今はうつ伏せになって、気持ち良さそうに寝息を立てていた。かけていた筈の布団を足で蹴って反転したのか、脚の間に布団が絡まっている。
「寝相、悪いんだな」
ひとりごちながら、ふっと、堪えきれない笑い声を漏らしてしまった。
脚に絡まった布団は取れないから、毛布をもう1枚出してきて背中に掛けてやり、うつ伏せで寝ている直くんの項にキスをした。
「おやすみ、直くん」
小声でそれだけ言ってから、ウォークインクローゼットの中でスーツに着替えてリビングに戻った。
電話の横のメモホルダーから紙とペンを取り、ありきたりのメッセージを残す。
『おはよう。今日仕事なので出かけます。サンドイッチ作ったので、良かったら食べてね。飲み物は、適当になんでも飲んでいいから。鍵は、ドア横のポストに入れておいてください』
それから、少し考えて……自分の携帯の番号を一番下に付け足した。
――やっぱり俺は……ずるい。
自分では、どうしても引き際を決められずに、直くんに決断を委ねた。
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