出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 バスルームに響くシャワーの音。

 白く立ち込めていく湯気。

 腕の中の余韻の残る身体。

 その重みを感じながら、俺は直くんを包み込むように抱きしめて、排水溝へ消えていく名残りをただ眺めていた。

 罪も、後悔も、全て流れて、忘れる事が出来るのなら、どんなに楽だろう。

 バスルームの床に座り込み髪を洗う頃には、直くんは完全に眠りに落ちてしまっていた。

 すっかり寝入って重みの増した身体を拭いて、髪を乾かして、ベッドに運ぶ。時計の針はもうすぐ午前3時を指そうとしていた。

 すやすやと規則正しい寝息を立てて眠っている直くんの寝顔を、俺はベッドの端に腰掛けて眺めていた。

 朝目覚めたら、直くんは今夜の事をどう思うだろう。そして、俺のことをどう思っているんだろう。

 俺は……直くんを、どうしたいんだろう。

 手を伸ばして、直くんの頬に指先で触れてみる。

 しっとりとした手触りの弾力のある頬に指を滑らせて、形のよい唇をなぞれば、直くんの身体が僅かに身じろいだ。

 起こしてしまったか、と思って、咄嗟に手を離すと、また安心したように規則正しい寝息が聞こえてくる。

 最初は俺の勝手な興味本位で、つい手を出してしまったけれど。肌を合わせて、もっと深いところへ指を伸ばして触れているうちに、俺は……確かに、彼に愛おしさを感じていた。

 それが『今』だけのものなのか。それとも『これからずっと』続くものなのか。さっきから考えているのに、答えは出せずにいた。

 いや、答えはとっくに出ているのかもしれない。でも、身体だけの関係ではなく、この線を越えてしまって、自分の熱を止められなくなるのが怖い。

 しかも俺たちは男同士で、二人で『未来』を歩むことなど、有り得ないのだから。

 熱くなる一歩手前の温度で踏みとどまれば良いんじゃないか……と、またずるい事を考えている。

 だけど、それではただの所謂セフレという関係になってしまうんじゃないんだろうか。それは、俺が一番嫌っている事じゃなかったのか。

 直くんは、どう思うだろう。また次もあると思ってくれているだろうか。それとも今夜の事は、ただ流されてしまっただけの過ちで、もう忘れたいと思うのだろうか。

 多分直くんは、また俺が誘えば流されるのかもしれない。だから……。

 大人の俺が、引き際を決めなくてはいけない……。なんて事を考えていた。
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