出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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「こんばんは」

 先に声をかけたのは、俺の方だった。

「こ……、こんばんは!」

 そう応えてくれた彼は、少し驚いた表情で緊張気味だったけど、すぐにあの人なつっこい笑顔に変わる。

 お互いの名前を教え合い、ただの店員と客から、少しずつ距離を埋めていった。


***


「いやー、俺、彼女とかいないし」

 クリスマスイブなのにデートの予定はなかったのか? と言う俺の質問に、直くんは当たり前のようにそう応えた。

『彼女がいない』と言うのは、特定の付き合っている子がいないと言うことなんだろうか。それとも、この間見かけた女の子達とも遊んでいないと言うことなのか。

「そうなの? モテそうなのに?」

「そんな、モテないですよ」

 即答する直くんに、思わず苦笑してしまう。 こういう質問にも、きっと慣れているんだろうな。

「……そういえば……、あの……、いつも一緒に店にくる女の人、最近見かけないですね?」

 何故か言い難そうに少しもじもじしながら、静香のことを訊いてきた直くんを不思議に思って、――ああ、そうか……と、思う。

 彼は、静香の事を好きだったのかもしれない。

「……気になる? 彼女の事」

「いえ、そんなわけじゃ……」

 そう言って、俯いてしまった彼の顔を覗きこむと、照れているのか、真っ赤な顔をしている。

 ――やっぱりそうか……。と、確信して、本当の事を言った方が親切なのか、少し迷って夜空を見上げた。

「あの子ね、こないだ結婚して、相手の人の仕事の関係でアメリカに行ったんだよ」

 隠していても仕方のない事だし正直にそう伝えると、彼の大きな瞳が、よりいっそう大きく見開かれる。

 静香の事をどれくらい好きだったのかは解らないけど、結婚の話を聞いて、驚いてしまうくらいには気になっていたのかもしれない。

 なのに、「寂しくないですか?」と、俺の心配をしている。

「まぁ……、寂しいと言えば寂しいけどね。あの子が幸せになるなら、それが一番だと思ってるよ」

 静香は、幸せになる為に結婚した。

 だから、本当にそうなるように、俺は願うだけだけど……。

 静香が結婚したことで、直くんの恋は告白することなく終わったのだと、俺は勝手にそう思って、勝手に同情していたのかもしれない。

 一緒に食べませんかと、ケーキを差し出した直くんを、このまま独りで帰すのは可哀想な気がして……。

 自分のマンションに誘ったのは、それ以外に意味は本当になかったんだ。

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