出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
237 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―

(2)

しおりを挟む
 いつの頃からだったのか、このカフェレストランのケーキが美味しいからと、静香の希望でこの店で待ち合わせることが多くなった。

 もう、それも今日が最後。

 静香は、もうすぐ結婚するから。

 これからは、兄の俺がいなくても、静香を愛してくれる人がずっと傍にいるから。

 少し寂しくて、とても嬉しくて……そして少し心配で。

「中で待ってたらよかったのに、寒かったでしょ?」

 俺の傍に駆け寄った静香は、少し俯いて息を整えながらそう言った。

 肩からスルリと滑り落ちた長い黒髪を指で掬って耳にかける仕草は、小さい頃から変わらなくて、懐かしい風景が胸を過ぎる。

「大丈夫だよ、そんなに待っていないから」

  娘を嫁に出す父親の気持ちって、こんな感じなんだろうか。

 そんな事をふと考えた自分に、自嘲の笑みが浮かぶ。


 **


「ここのケーキも、暫く食べれなくなるね」

「そうなの。だから、どれにしようか迷ってるのよ」

 席に座ると直ぐにメニューを開いた静香は、どのケーキにするか真剣に悩んでいる。ケーキ以外の物を食べる気は、全く無いらしい。 

「メニューとにらめっこしている表情は昔から変わらないね」

「それ、どういう意味? 子供っぽいってことかしら?」

 メニュー越しに睨み付けてくる静香に「ゆっくり選んでいいよ」とだけ言って、俺は店内に視線を巡らせる。

  ――彼は……、また柱の影に立っている。

 注文を取りにくるタイミングを見計らっているんだろうか、何となく……こちらを見ているように思えた。

 でも視線が合うことはなく、フロアマネージャーに何か言われて慌てている。

 その様子を見ているだけで、自分の口元が緩んでしまっているのに気が付いていなかった。

「お兄ちゃん、あの子のこと、また見てる」

 そう言われて、静香の方に視線を戻すと、クスクスと小さく笑いながら俺の瞳を覗きこんでくる。

「いつも、あの子のこと見てるよね? そんなに気になるの?」

「別に、気になってるわけじゃ……。俺、そんなにいつも彼のことを見てるかな」

 妹に、少なからずとも図星を突かれて、なんとなくバツが悪い。

しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...