出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra2:Moonlight scandal

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 いつの間にか、日が暮れかかっていて、薄暗くなっていた。

 さっき自販機で買ったスポーツドリンクのキャップを開ける音が、車中で静かに響く。

「直くん、お腹空いてる?」

「ん~~」

 ペットボトルの飲み口に唇を付けたところで透さんに訊かれて、目の前のダッシュボードクロックに視線を落とす。

 日が長いから、思ったよりも時間が経っている事に気が付かなかった。

「実はホテルでデザートをいっぱい食べたせいか、あんまり腹減ってないかも」

 でも、喉はカラカラで、喉へと流し込んだ冷たいスポーツドリンクが心地よく体内に沁み込んでいく。

「そう? 実は、俺もパーティーで食べたせいか、あまり空いてないんだよね」

 夕飯は後でいいか……。と、呟く透さんに、俺は飲みかけのペットボトルを差し出した。

「透さんも飲む?」

「うん、ありがとう」

 透さんは、俺の手からペットボトルを受け取り、飲み口に唇を付けた。

 仰向いて、ごくごくと音を立てながら上下する透さんの喉仏が、なんだか色っぽいなんて思っちゃって、俺はそこから視線が外せない。

「何?」

 俺の視線に気が付いた透さんが、濡れた口元を手の甲で拭いながら首を傾げた。

「え? いや、えーと……あー、透さんの水着姿……じゃなくて……泳ぎに行きたかったなーって、思って」

 慌てて誤魔化したけど、喉仏を見ていて、透さんの水着姿を想像するなんて、俺かなりの変態じゃん。

「あぁ……プールね」

 透さんは申し訳なさそうに「ごめんね、約束守れなくて」と謝るから、俺は慌てて首を横に振った。

「え、いや、今日行けなかったのは透さんのせいじゃないしっ、こないだ俺も電話を途中で切っちゃったしっ……だから、あのっ、だから……」

 もっと大人にならなきゃって思ったばかりなのに、そんな風に透さんのせいにするつもりなんかなかったのに。

「……だから、俺の方こそ、ごめんなさい」

「え? いや、直くんは全然悪くないでしょう? 俺の方こそ心配かけて本当にごめんね」

「ううん、俺の方が透さんの気持ちも考えないで悪かったからっ」

「そんな事ないよ……」

「あるって!」

 なんか、お互いが謝り合って、どちらも引かなくて、気が付いたら顔を見合わせて二人して笑っていた。

「そうだ……直くん、今から泳ぎに行こうか」

 突然、思いついたように透さんが提案してきたけど、予定していたフィットネスクラブの予約はキャンセルしたはずだった。

「へ?……何処へ? フィットネスの予約はキャンセルしなかったの?」

「行けるかどうか分からなかったから、フィットネスはキャンセルしたんだけど……」

「じゃあ、今からじゃ無理なんじゃないの?」

 透さんは何か考えるようにフロントガラスの向こうを見遣り、それから俺に視線を戻した。

「いや、フィットネスクラブは無理だけど、他にも泳げる所はあるよ」

「ホント? 行きたい! あ……でも俺、水着ないよ? 透さんも今、持ってないでしょ? どうする?」

「いや、水着なくても大丈夫。泳げるよ」

 何かを企むような悪戯っぽい笑顔が気にはなったけど、透さんがそう言うから、きっとそこのプールで水着の貸し出しでもしてくれるのかなって思ったんだ。
 
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