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Extra2:Moonlight scandal
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――ああ……やっぱり親ならそう思うのは当然だし……。
透さんは直球で話をしようとしているけど、そんな事認めてもらえる筈がないのにって思う。
「まさか、相手が男だとは思わなかったな」
お父さんは、そう言って声をあげて笑う。
息子がいきなり男を連れてくるなんて思ってもいなかったって気持ちは、俺にだって分かる。
「美智代がこの前、透のマンションで会ったと言ってたのは、直くんなんだね」
美智代って……お母さんのことか。
俺が透さんの部屋に居た事も、お父さんは知っているんだ……。
「美智代が妙な関係じゃないかと、もしそうならとんだスキャンダルだって、随分心配していたが……」
お父さんの言葉に、俺は、もう俯くしかなくて。
「まさか本当にそうだったとはね。美智代もなかなか勘が鋭いね」
俺は居た堪れなくなってきて、逃げ出したい衝動に駆られる。でも膝の上に置いた手をぐっと握りしめて堪えていた。
その時、不意に俺の手を上から包み込むように、透さんの手がそっと重なった。
――えっ……? 透さんっ……!
手を握るのはマズイんじゃ……って、思わず顔を上げた俺に笑いかけてから、透さんはお父さんに視線を戻す。
「そうです。だから俺は前にも言ったように、美絵さんと結婚して会社を継ぐ事はできません」
優しく重なった透さんの手は温かくて、緊張のせいで冷たくなってしまっていた俺の手に、その温度が伝わってくる。
「ずっと父さんを見てきて、俺は本気で人を愛する事なんて一生無いんだと思っていました」
お父さんにとっては、辛い言葉だったかもしれない。それでも、いつもよりもトーンが低く、落ち着いた声で話す透さんの言葉を、お父さんは優しく見守るような眼差しで静かに聞いていた。
「でも直くんに出逢って、どうしようもなく惹かれて、そして想いが通じて……。同じものを見て、同じように綺麗だと感動したり、傍で一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり……」
――今、とても幸せで……。
そこで一旦、言葉が切れて、透さんの視線を感じた。
隣の透さんを見上げると、ふわりと暖かい眼差しに包まれる。そして、俺と視線を合わせたまま、透さんは言葉を続けた。
「そんな幸せがこの世にあるって教えてくれたのは、直くんなんです。好きな人と一緒に過ごせる幸せを大切にしたいと思えるようになれたのも、直くんが居てくれたから……」
透さんの言ってくれた言葉に、何だか胸が熱くなってきて、すごく嬉しくて……。
――俺も、同じだから。
好きな人と一緒に過ごせる幸せを俺に教えてくれたのは、透さんだった。
――――でも……俺……。俺は透さんのこと……。
「そうか」
ずっと黙って、透さんの話を聞いていたお父さんが、静かに口を開く。
透さんは直球で話をしようとしているけど、そんな事認めてもらえる筈がないのにって思う。
「まさか、相手が男だとは思わなかったな」
お父さんは、そう言って声をあげて笑う。
息子がいきなり男を連れてくるなんて思ってもいなかったって気持ちは、俺にだって分かる。
「美智代がこの前、透のマンションで会ったと言ってたのは、直くんなんだね」
美智代って……お母さんのことか。
俺が透さんの部屋に居た事も、お父さんは知っているんだ……。
「美智代が妙な関係じゃないかと、もしそうならとんだスキャンダルだって、随分心配していたが……」
お父さんの言葉に、俺は、もう俯くしかなくて。
「まさか本当にそうだったとはね。美智代もなかなか勘が鋭いね」
俺は居た堪れなくなってきて、逃げ出したい衝動に駆られる。でも膝の上に置いた手をぐっと握りしめて堪えていた。
その時、不意に俺の手を上から包み込むように、透さんの手がそっと重なった。
――えっ……? 透さんっ……!
手を握るのはマズイんじゃ……って、思わず顔を上げた俺に笑いかけてから、透さんはお父さんに視線を戻す。
「そうです。だから俺は前にも言ったように、美絵さんと結婚して会社を継ぐ事はできません」
優しく重なった透さんの手は温かくて、緊張のせいで冷たくなってしまっていた俺の手に、その温度が伝わってくる。
「ずっと父さんを見てきて、俺は本気で人を愛する事なんて一生無いんだと思っていました」
お父さんにとっては、辛い言葉だったかもしれない。それでも、いつもよりもトーンが低く、落ち着いた声で話す透さんの言葉を、お父さんは優しく見守るような眼差しで静かに聞いていた。
「でも直くんに出逢って、どうしようもなく惹かれて、そして想いが通じて……。同じものを見て、同じように綺麗だと感動したり、傍で一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり……」
――今、とても幸せで……。
そこで一旦、言葉が切れて、透さんの視線を感じた。
隣の透さんを見上げると、ふわりと暖かい眼差しに包まれる。そして、俺と視線を合わせたまま、透さんは言葉を続けた。
「そんな幸せがこの世にあるって教えてくれたのは、直くんなんです。好きな人と一緒に過ごせる幸せを大切にしたいと思えるようになれたのも、直くんが居てくれたから……」
透さんの言ってくれた言葉に、何だか胸が熱くなってきて、すごく嬉しくて……。
――俺も、同じだから。
好きな人と一緒に過ごせる幸せを俺に教えてくれたのは、透さんだった。
――――でも……俺……。俺は透さんのこと……。
「そうか」
ずっと黙って、透さんの話を聞いていたお父さんが、静かに口を開く。
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