出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra2:Moonlight scandal

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「そんなに深く考えないで。ただ俺が紹介したいだけなんだし、気楽にしてて」と、透さんは言うけれど……。

 緊張するなと言う方が無理だよ。だって、透さんのお父さんだよ?

 透さんを小さい頃から会社の後継ぎとして厳しく育ててきて、会社の為に透さんのお母さんと別れて、再婚して、それでお母さんが亡くなった時も葬式にも行かない。

 家族の幸せより優先するのは会社の事、みたいな冷たいイメージがあって。会うってだけなんだけど、正直なんとなく怖い。

 透さんは、俺の事を何て紹介するつもりなんだろう。

 まさか、さっき言ったみたいに、『大切な人』ってお父さんの前で言うはずないしっ。

 てか、そんな事言ったら、お父さんに俺がめっちゃ怒られそうな気がするっ。

 じゃ、じゃあ、『大切な人』じゃなくて、『大切な友達』って紹介するのかも。

 ――そうだな、そうに決まってる。

「………」

 ――『もう家の事や会社の事で、直くんに辛い思いはさせない。だから、会わせたい人がいるんだ』

 ふと、ここに来る前に透さんに言われた事が頭を過って、透さんのお父さんと会うって意味が、どう言う事なのか、やっと回らない頭で、なんとなく理解できた気がして。

 その途端、心臓が壊れるんじゃないかと思うくらい高鳴りだした。

 それだと、『大切な友達』じゃなくて、やっぱ『大切な人』?!

 な、なんか『友達』と、『人』の違いだけで、意味合いが全然変わってくる気がするんだけど!

 もう既に病院の最上階の廊下を歩いてて、なんだかとても重厚な扉の前で透さんは足を止めた。

 ちょっと焦りながら見上げる俺に、透さんはにこっと微笑みかけてくる。

「ここ……?」

 どう見ても、普通の病院の個室じゃない……いかにも特別室な感じの扉に足が竦んでしまいそう。

 ドキドキする胸の辺りのシャツを握りしめて、落ち着こうとするけど、無理っぽい。

 逃げ出したい気持ちが、足を一歩、後ろに後退させる。

「直くん」

 透さんが、優しい声で名前を囁くように呼んで、俺の手をギュッと握りしめてくれる。 

 俺を見詰める瞳は優しくて、『大丈夫だよ』と、言葉に出さずに目の表情だけで語りかけているようで。

 ただそれだけの事なのに、まるで魔法にかかったように、不思議と心が落ち着いてくる。


 ***


「透です」

 軽くノックすると、重厚な扉はすぐに開かれる。

「いらっしゃると思っていました」

 部屋の中から出てきた男性が、そう言って透さんに深々と頭を下げる。

 30代半ばくらいの、高そうなスーツをピシッと着こなした、ちょっと神経質そうだけど、いかにも仕事ができそうな感じの人だ。

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